被曝 救急外来などで診断のために撮影するCT撮影。患者さんが妊婦の場合,どんなことを考えたらよいのでしょうか。
この記事は、医師同士疑問解決プラットフォーム “Antaa” で実際に行われたやりとりの中から学んでおきたい内容を回答いただいた先生に執筆いただいております。

妊婦の放射線暴露について
妊婦の方には胸部レントゲンは良いけど、CTは撮影すべきでないと指導されたことがあるのですが、実際はどうなのでしょうか?


単純X線検査であれば基本心配はいりません。単純CTでも腹部、骨盤CTでも1回程度であれば確定的影響についても100mGyを超えないと認識しています。
造影剤に関しては安全性を確立するエビデンスがないため、ケースバイケースで判断が必要です。
ここでは、妊娠週数に応じた被ばくと胎児への影響、X線検査から受けるおよその胎児線量、胎児被ばくによる発がん、MRIや造影剤について解説します。
東京医科歯科大学医学部附属病院 周産・女性診療科 丸山 陽介
妊娠週数と発生
表1 妊娠週数と発生(1)
胎児の大奇形の発生はほとんどの臓器において妊娠15週目までの初期に生じます(表1)。
そのため、妊娠初期において胎児にどれくらいの放射線被ばくがあるのか確認することが重要です。
妊娠週数に応じた被ばくと胎児への影響
胎児の影響 | 感受性の特に強い時期 | しきい線量など(確定的影響) |
胎芽/胎児死亡 | 着床前期(受精-9 日間) | 100mGy |
奇形の発生 | 器官形成期(妊娠4-10週) | 100mGy |
精神発達遅滞 | 胎児期(妊娠10-15週あるいは25週まで) | 300mGy |
表2 胎児への放射線の影響(2)
放射線被ばくによる影響には、[keikou]確定的影響と確率的影響[/keikou]があります。
確定的影響は、ある線量(しきい値)を超えると生じる影響のことで、これを下回る線量では生じません。妊娠初期におけるしきい線量と胎児への確定的影響の関係を示します(表2)。
妊娠初期のうち、胎児期(10-15週)では、精神発達遅滞を生じます。それ以前の器官形成期(妊娠4-10週)や着床前期(受精-9日間)では、それぞれ奇形の発生や胎芽/胎児死亡などの重篤な影響が生じます。
少なくとも100mGyを超えない線量であれば胎児への確定的影響は生じないとされています。
X線検査から受けるおよその胎児線量
単純X線 | 平均(mGy) | 最大(mGy) |
頭蓋骨 | <0.01 | <0.01 |
胸部 | <0.01 | <0.01 |
腹部 | 1.4 | 4.2 |
CT | 平均(mGy) | 最大(mGy) |
頭部 | <0.05 | 0.005 |
胸部 | 0.06 | 0.96 |
腹部 | 8.0 | 49 |
骨盤 | 25 | 79 |
表3 放射線検査から受けるおよその胎児線量(妊娠4-15週)(2)
腹部単純X線検査では、平均して1.4mGy、最大で4.2mGy、骨盤部CT検査では、平均25mGy、最大で79mGyで確定的影響のしきい値である100mGyよりは少ないことがわかります。
1回の骨盤CT検査で胎児に上述の確定的影響が生じる可能性はほぼないと考えられます。
胎児被ばくによる発がん
被ばく線量(mGy) | 小児がんの非発生率(%) |
0 | 99.7 |
1 | 99.7 |
5 | 99.7 |
10 | 99.6 |
50 | 99.4 |
100 | 99.1 |
表4 放射線被爆による小児がん発生の確率的影響(全妊娠期間中で)(2)
発がんは放射線被ばくによる確率的影響に分類され、しきい値はありません。被ばく線量の上昇とともに確率的影響である小児がんの発生も増加することが知られています。
表4では放射線被ばくによる小児がん発生の頻度を示しております。全妊娠期間を通じて、10mGyの被ばくを受けた場合、全く被ばくしなかった児と比較して0.1%のがん発生率の上昇が認められ、100mGyの被ばくでは0.6%のがん発生率上昇が認められます。
胎児の放射線被ばくの影響は、思ったほど大きくないということがご理解していただけたでしょうか。しかし多少なりとも影響があることは否定できないため、その点を考慮することも重要です。大切なことは[keikou]「正しい知識をもってしてrisk&benefitを考慮し、その時における最善の一手を尽くすこと」[/keikou]だと私は考えます。
胎児MRIの安全性
現段階で胎児への安全性は確立されてはおりませんが、ほぼ影響はないと考えられています。MRI撮影が待てる状況であれば、期間形成期が過ぎた妊娠17週以降での撮影という手段を選択しても良いですが、状況により、母体の予後に関わってくる場合などはMRI撮影に躊躇する必要はありません。
造影剤投与の安全性
造影剤は胎盤を通過し胎児循環に入り腎臓から排泄され羊水に貯留します。妊娠中のガドリニウム造影MRIは死産や胎児死亡リスクを上昇させるというデータもあり、診断上の有益性が危険性を上回るときにのみ投与するという扱いになります。
ヨード造影剤に関しては胎児の甲状腺機能低下を引き起こすことがあるため使用後1週間は注意深く胎児心拍モニタリングを行い観察することを要すこともあります。産婦人科 診療ガイドライン 産科編 2017 P107 記載参照。油性にしても水溶性にしても、頻度は低いですが、胎児の甲状腺機能異常を引き起こす可能性を否定できず、専門医への相談が必要です。
上記を踏まえて、特に救急外来などにおいては、よほどのことでない限り造影剤は使用しない方が良いと思っていて良いかと思います。どうしても使用したい場合は対象疾患の専門の医師と産婦人科医に相談してから行うことが望ましいと考えます。
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参考文献/書籍
- 国立研究開発法人国立成育医療センター「妊娠と薬情報センター」
- 「もう困らない!プライマリ・ケアでの女性の味方 女性診療に携わるすべての人に役立つ問診・診察・検査のノウハウ」(井上真智子/編),羊土社,2015
- JAMA. 2016 Sep 6;316(9):952-61.
- 産婦人科へつなぐ 日常診療での女性のミカタ(木村正/編),メディカルレビュー社,2016
- 女性の救急外来ただいま診断中(井上真智子/編),中外医学社,2017
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