介護保険主治医意見書って書いたことありますか?
「どうして書かないといけないんだ!?」
「書き方が分からない…」なんて感じたことはありませんか?
はじめまして、愛知県にある豊田地域医療センター総合診療科の近藤敬太と申します。
老人保健施設の運営や介護認定審査会委員もしています。
介護保険主治医意見書の記載、正直大変ですよね…僕も最初はそうでした。
しかし、主治医意見書を書くだけでなく実際に利用する立場になって、「こういうことだったのか!」「こう書けば良かったんだ!」と驚くことが多く、その意義を理解したことで、短時間かつ分かりやすい形で書けるようになりました!
ここでは主治医意見書を初めて書く医師でも分かりやすく
「介護保険主治医意見書ってそもそもなんなのか」
「介護保険主事意見書の書き方」
「書き方のポイント」
について具体例をお示ししながら解説します。
また、現場により良い知識が届くように、記事を改善しつづけていきたいと考えています。
制度改正などで追加修正が必要な内容があれば、ぜひAntaa編集部までご一報ください。
藤田医科大学 総合診療プログラム
豊田地域医療センター 総合診療科
老人保健施設かずえの郷・さなげ 近藤 敬太
介護保険主治医意見書とは
主治医意見書が利用される場面はズバリ
②ケアプラン作成
の2つです。主治医意見書とは何かを考えるにあたって、読み手が誰なのかを考えると理解がしやすくなります。
①介護認定審査会
介護認定審査会は、簡単に言えば要介護認定の最終決定を行う会議です。
介護保険申請時、その申請者に主治医がいる場合「介護を必要とするようになった障害の原因である病気や負傷の状態について」主治医から意見を求めることになっています。
「主治医意見書を書く」と言うとこちらがイメージされやすいのではないでしょうか。実際にはどういった内容が見られているか、表1をご覧ください。
<表1 介護認定審査会において介護主治医意見書を確認するポイント>
確認項目 | みられるポイント |
特定疾病に該当するかどうかの確認(第2号被保険者のみ) | 申請者が40歳以上65歳未満(第2号被保険者)の場合、生活機能低下の直接の原因となっている疾病が特定疾病(表2)に該当することが認定の条件となっており、その診断根拠の記載もみられます。 |
介護の手間についての確認
| 介護認定審査会では「介護の手間=介護がどのような理由で大変か」を評価し、審査が行われるので、介護の手間の程度や具体的な状況もみられます。 |
認知症の有無の判断、状態の維持や状態安定・不安定の確認
| 「要支援2」と「要介護1」を分ける時にみられます。 ・認知症=日常生活自立度がⅡ以上かM のうち、どちらかに該当すれば要介護1と認定されます。(図1参照) |
<表2 特定疾病 介護保険法施行令第二条を参考に作成>
※印は平成18年4月に追加、見直しがなされたもの |
<図1 要支援2・要介護1の振り分け方 要介護認定 介護認定審査会委員テキスト2009より引用)
介護認定審査会において特に重視されているのは「第二号被保険者の場合は特定疾病かどうか」「介護の手間について」「認知症の有無」「状態の安定・不安定」といったポイントで、これらについてはしっかりと記載しておく必要があります。
特に、要支援2と要介護1は同じ程度の介護の手間と判断されます。その中で図1にあるように、「認知症の有無」「状態の安定・不安定」を判断し、要支援2と要介護1に振り分けていきます。
要支援2と要介護1では受けられるサービスが大きく異なるため、このポイントを押さえて記載をする事が非常に重要です。
②介護サービス計画(ケアプラン)作成
介護認定後、主治医意見書の情報を元にして、介護支援相談員(ケアマネージャー)がケアプランを作成し、医学的観点からの意見や留意点等に関する情報をサービス提供者に伝えます。
つまり、ケアプランを作成する際に有用となるサービスや福祉用具、留意点などを具体的に記入する必要があります。
具体例は” 3.『特記すべき事項』を記入する時のポイントと考え方 “で後述します。
共通の様式と3つの具体例でみる基本的な記載方法
以下に3つの具体例を提示します。それぞれの症例にどのようなポイントがあるか確認してみて下さい。
[aside type=”sky”] ①第1号被保険者 認知症のある患者②第1号被保険者 認知症のない患者
③第2号被保険者 末期癌患者[/aside]
①第1号被保険者 認知症のある患者
<図2 介護保険主治医意見書記入例:第1号被保険者 認知症のある患者>
1号被保険者、アルツハイマー型認知症の患者です。医学的な専門用語を避けながらこれまでの認知症の経過についてを「疾病に関する意見(1—(3))」で書きます。また、HDS-Rの点数、どのような手間がかかるか、日常生活の注意点、必要と考えられるサービスについてを「特記すべき事項(5)」で書きます。
②第1号被保険者 認知症のない患者
<図2 介護保険主治医意見書記入例:第1号被保険者 認知症のない患者>
第1号被保険者、2型糖尿病の患者です。糖尿病性神経障害が身体機能低下の主な原因であり、特に投薬ではインスリンの管理に注意が必要ということを、「疾病に関する意見(1−(3))」で書きます。また、高齢独居という背景、下肢筋力低下により必要と考えられるサービスについてを「特記すべき事項(5)」で書きます。
③第2号被保険者 末期癌患者
<図3 介護保険主治医意見書記入例:第2号被保険者 末期癌患者 >
第2号被保険者、がん末期の患者です。今までの症例と違い40歳以上、65歳未満の第2号被保険者のため、症状の不安定性の具体的な説明、特定疾病の診断過程についてを「疾病に関する意見(1)」で書きます。また、悪性腫瘍末期であり、ADL低下が予想されることや、必要な福祉器具、サービスについてを「特記すべき事項(5)」で書きます。
『特記すべき事項』を記入する時のポイントと考え方
特に難しいと感じられるのは『特記すべき事項』の書き方ではないでしょうか。『特記すべき事項』の充実は「要支援2と要介護1」の判定や「非該当」の判定において重要です。さらに、介護判定後のケアプラン作成の鍵ともなります。
「介護の手間」について「身体機能」「認知機能」の観点から記載することを意識して下さい。もちろん、必ずしも医師が全ての情報を収集する必要は無く、多職種や患者本人とその家族で情報を収集・共有するという考え方が重要となります。一般的に収集する情報は(表3)(表4)にまとめて最後に記載しています。
これらのポイントから読み手が「介護の手間」を想像できるように具体的に記載することが重要です。また、読み手は介護認定審査員(健康・医療・福祉の学識経験者)と介護支援専門員(ケアマネージャー)であり、必ずしも医師ではないため、専門用語ばかりではなく介護認定審査員、介護支援専門員(ケアマネジャー)を意識した書き方が必要となります。具体的な例文と解説は以下の通りです。
○身体機能について
(1)疾患や症状に伴う介護の手間に関すること
[topic color=”green” title=” 例文 “]パーキンソン病による下肢の筋力低下に伴い、椅子からの立ち上がりやトイレ動作が不安定になってきている。廃用症候群の予防のため離床が欠かせないが、家族がつきっきりとなるため負担が大きい。[/topic]
→疾患や症状によりどのように介護の手間がかかっているかを読み手が具体的に想像できる。
(2)直接的な介助・ケアやサービス利用に関すること
[topic color=”green” title=” 例文 “]症状の進行に応じて、毎週3回、訪問リハビリを利用しているが、本人のリハビリの意欲に濃淡があり、入浴やトイレ移動などで全介助を要する場合がある。転倒による廃用症候群の予防のため、短期集中的なリハビリの提供の確保が望まれる。[/topic]
→実際にどのようなサービスが必要となるかを読み手が具体的に想像できる。
○認知機能について
(1)日常生活中にみられる介護の手間に関すること
→認知機能低下により日常生活においてどのように介護の手間がかかっているかを読み手が具体的に想像できる。
(2)症状の進行に関すること
→認知機能低下の症状がどのように進行しているかを読み手が具体的に想像できる。
(3)直接的な介助・ケアやサービス利用に関すること
① 家族介護の状況(負担感)
→介護負担が増えている原因について読み手が具体的に想像できる。
② 利用している・必要となる介護サービス・サービス利用の注意点
→家族、本人にとっていつ・どのようなサービスが・なんで必要となるかを読み手が具体的に想像できる。
<表3 特記すべき事項欄の充実のために必要な項目一覧 主治医意見書記載ガイドブックを参考に作成)>
身体に関する項目 | 身長・体重(BMI)の変化 四肢(利き腕や欠損) 麻痺・拘縮(有無と部位) |
生活に関する項目 | 屋内・屋外の移動(手段や距離) 食事・排泄・入浴の動作(回数・程度) 日中離床・睡眠(時間や薬) |
行動に関す流項目 | 外出(頻度や意欲) 認知機能(記憶や見当識) 認知症の影響(介護への抵抗や火の扱い) |
<表4 特記すべき事項欄充実のための基本チェックリスト 主治医意見書記載ガイドブックを参考に作成>
|
最後に
主治医意見書を書くことは、最初は誰しも「面倒くさい」「嫌だなぁ」と感じることかと思います。しかし、主治医意見書に書くべきポイントは患者さんの生活環境や周囲の状況を把握する上で非常に重要であり、多職種連携や患者さんへのより良い医療の提供にも繋がります。主治医意見書を書く時だけではなく、是非、定期の外来からこれらのポイントを意識して診療をしてみて下さい!
記事で疑問は解決できたでしょうか?
AntaaQAは医師専用のオンライン相談アプリです。
現場で患者さんの診断治療に困った場合は、AntaaQAで他の医師に相談してみませんか。
みんなで一緒に患者さんの診断治療に取り組みましょう。
参考文献
- 要介護認定における主治医意見書の実態把握と地域差の要因分析に関する調査研究事業 報告書 平成28年3月 厚生労働省
- 介護認定審査会委員テキスト 2009 厚生労働省
- 認定調査員テキスト 2009 厚生労働省
- 厚生労働白書 第1部 人口高齢化を乗り越える社会モデルを考える 第3章 高齢期を支える医療・介護制度 厚生労働省
- 公的介護保険制度の現状と今後の役割 平成27年度 厚生労働省 老健局 総務課
現場の判断を助ける医師同士の質問解決プラットフォーム「AntaaQA」
「外来で、専門外の症状の診断に不安がある。経過観察をしようか迷う」
「当直で、レントゲンで骨折を疑ったが、読影に不安がある。他に人を呼ぶべきか判断に迷う」
そんな時、AntaaQAでいつでも即相談することができます。
第一線を走る医師たち・同じ悩みをもつ医師に質問ができ、判断に迷ってたあなたの悩みを解決に導く、医師同士の質問解決プラットフォームです。
コメント - Comments -
コメントは公開されません。