臨床・教育・研究の3分野をしっかりと行える拠点を九州に作りたい

感染症科のPlaying Managerと言う立場から見るビジョンとは?

今回は飯塚病院の感染症科部長の的野多加志医師にお越しいただき、インタビューに答えていただきました。地域の住民に密着した医療を提供しながら、感染症専門医の育成拠点として全国に良質な専門医を輩出できるよう尽力されている的野医師に、感染症科の特徴やご自身の経験をお聞きしました。

【的野 多加志 医師:飯塚病院 感染症科】

医師を目指すきっかけは、体育での大怪我で入院したこと

なぜ医師の道を選んだのでしょうか?

高校2年生くらいまでは、星が好きだったのでNASAなどの宇宙産業に行きたかったんです。
ですが、高校1年生の時に同級生で病気になった子がいて、足繁く病院に通っていた事や、僕自身も体育の授業で脾臓の切迫破裂という大怪我を負って、病院に長期間入院していたことで病院に接する機会が増えました。

そういった経験からどんな職業に就いても、病気や死ぬ時になったら最後は医者に頼ることになるな”と思ったんです。

その中で良くも悪くも様々な医師から影響を受けて、人間味のある医者になりたいと思うようになりました。
ですが、医学博士で宇宙に行っている方もいるので、まだ宇宙の夢は諦めていません!(笑)

なぜ感染症科に興味を持ったのでしょうか?

感染症科は他の科と違って患者さんの年齢に関係なく、かつ全臓器にまたがって診なければいけない診療科です。
しかし、それを体系的に学べる機会は限られています。
大学で臨床感染症学の講座をもっているところはごく少数です。
微生物学的な知識、患者背景などを考えて横断的に見ないといけない診療に関わらず、学生のうちに基礎を教えてもらえる機会は、実は少ないんです。

また臨床が始まっても、横断的な感染症診療を行っている病院は日本では多くありません。
さらに、日本には感染症の専門医が1,400人で、これは人口10万人あたりとして計算するとアメリカの半分以下です。
かつ、その専門家の約4割は関東地域に偏在していて、地方で学べる機会が少ないです。

グラム染色などの微生物学的なものを除き、感染症診療を行う上で手技はあまりありません。
例えば、循環器なら心臓血管カテーテルをするというような手技が、感染症診療にはないんです。
個人的には、最も内科に寄った内科だと思っています。このようなロジスティックスな考え方が私の性に合っていて、興味を持ちました。

感染症学は微生物学・疫学・臨床感染症学 3つの学問体系がある

現在の感染症教育において問題点などはありますか?

そうですね。やはり、基礎的な微生物学と疫学が学べても臨床感染症学を学べる大学が少ないのが問題だと考えます。

感染症には大きく分けると3つの学問体系があります。
1つ目は、微生物学でウイルスとか細菌などの微生物を相手にします。
2つ目は疫学で、どこで何の感染症が流行しているかや、流行している原因が何なのかを特定します。
3つ目は微生物学と疫学を組み合わせた臨床感染症学です。
そしてこの臨床感染症学を学べる大学は、他の2つに比べて少ないです。
微生物学や疫学を学べても臨床感染症学を学べる大学が少ないのが問題です。

感染症科の中でご自身の強みなどはありますか?

今は臨床をやっていますが、個人的に微生物学がすごく好きで、国立感染症研究所で微生物の研究だけを行っている時期もありました。
特に細菌学、なかでもチフス菌を専門にしていました。
この強みを活かしつつ、関東に出てこなくても九州で感染症医を育てられる施設があるといいなと思って、九州に戻ることを念頭に学位を取ったり東京で学んだりしました。
感染症の中でもさらに“チフス菌だけは僕に任せてください”というような尖った武器を持っていることは非常に役に立つと今になって実感しています。

臨床、教育、研究の3分野をしっかりと行える拠点を九州に作りたい…そのビジョンとは

的野医師の将来のビジョンを教えてください

私には中長期ビジョンがあり、現在はその通過点にいます。
今は、感染症の患者に寄り添った診療をすることはもちろんですが、今は部長なのでマネジメントも行わなければいけません。
私はこの“playing manager”という立場が好きです。
臨床しつつマネジメントを行う方が現場の声も吸い上げやすいし、マネジメントにも有効活用できるんです。

現場では、診断力を磨き、院内や地域からの信頼を勝ち得ること目指しています。

そして今後は、playing managerの立場を生かして、コアとなる臨床感染症をきちんと院内で行いつつ、「上下横展開」を目指しています。
具体的には、臨床感染症、感染管理、抗菌薬適正使用などの分野で、地域へ貢献したり近隣施設に協力するという「横展開」。
また、政策面でも地域や県などへ提言を行い、国や世界規模の考えに立った専門家としての役割を果たすというような「上展開」。
さらには、後輩のニーズや特性にマッチした育成や進路の提案を行うことで、様々な分野で活躍し、感染症専門家の少ない地域で新たな拠点を作っていけるような後輩を育成する、いわば将来へ向けた「下展開」を考えています。
臨床、教育、研究の3分野をしっかりと行える拠点を九州に作りたいと思っています。

理想の医師像を教えてください

感染症はWHOや行政(国)にも担当者がいるため、活躍できる場所は世界を股にかけ非常に幅広いです。
しかし臨床では、とにかく患者に近い立場で、現場に密着した“人間味のある医者らしくない医者”、強いては普段の会話から疾患を見つけたりできるような医師になれるよう努力しています。

また、後輩に対しては、特性を理解して道を示してあげたいと思っています。横と縦の繋がりを大切にし、視野を広く持ちながら働きたいと考えています。

中長期のビジョンはどのように描くのでしょうか?

医者のキャリアって、医学部を卒業してから、初期研修、専攻医と下積みがすごく長いんです。
何かを成し遂げたくても、資格が取得できないために、一見、受動的な時期を過ごすしかないと思うことがあります。
大体30代半ばで、専門医の資格や学位を取得することを考えると、現役バリバリの期間は残り約25年しかありません。
この時間をどう使うかを考える、これが受動から能動に変わる瞬間です。
中長期といっても10年先のビジョンをなんとなく1〜3つほど作って、さらにそれを5年、1年と細かく目標設定していくことが大事だと思います。

また、自分とより早く向き合えている人の方が、他人と比較し続けている人より、ビジョンの設定が早いです。
「他人の評価」を気にするのではなく、「自分が出す結果」を追い求めている人はビジョンの設定が上手いと思います。

先生はどのように自分と向き合っているのでしょうか?

私は、To Doリストに自分の思いを箇条書きして、年に2回それを見直すようにしています。
そのリストを眺めながら優先順位をつけることで、自分と向き合っています。人間は外からの刺激によって発想が浮かんできます。
だから特定のものだけではなく、テレビや普段の会話などから受ける刺激も大切にしています。
そして自分が刺激を受けた時には、意識してメモをとるようにしています。

若手の先生で中長期ビジョンを持っている医師は少ないと思います。自分のビジョンをもつために、何かアドバイスはありますか?

『自分の未来は自分で作る!』
この一言に尽きます(笑)。

若手の先生は少なからず、“どこにいけば何が学べるとか、有名病院にいくのがいい”とかを気にする時期があります。
その時期には、自分のやりたい事のために、選択する事は少ないと思います。

しかし、受動的な考えが能動的に変わらなければビジョンは描けません。自分のやりたい事(=夢)は人生のどこかで見えてくるはずです。
やりたい事が見つかった時に、自分の方向性を決めていって、そこから逆算することで初めて、中長期また短期のビジョンがもてると思います。

 

人のマネジメントには、現場との距離感が非常に重要

マネジメントを始めたきっかけはなんだったんでしょうか?

生まれ持った気質かもしれません(笑)
気がつくと、マネジメントをやっていました。私は、何かを作り上げたい、成し遂げたいという思いをもって、話の中心になる、プロモーター気質だと思います。
部活で言うキャプテンみたいなものですね。
つまり、1つのことに没頭することに加え、夢を語り合いながらプロモーティングする両方が行えたんです。
夢を語って、それを実現するために行動していると、それに賛同する人が集まってきてマネジメントも行っている状況です。
職場では家族で言うお父さんのような役割です。

“職場での良いお父さん”とはどのような存在でしょうか?

人をマネジメントするのには、現場との距離感が非常に重要です。現場から意見を集約したりフィードバックできるような関係性が理想です。
このお父さんというのもすごく意味があって、馴れ合いではなく、怒るべきことには怒れるような距離感を保つようにしています。
その人が外の環境でも対応できるように、人材を育成しています。

メンバーの適性を引き出すコツはなんでしょうか?

私は、playing managerだからこそ、現場での言動や仕事のやり方など、全てを見ることができるので、その人の適性を見つけ易いです。
やはり、現場に密着してその人をよく知ることが1番重要ですね。
私のようなプロモーター気質のほかに、コントローラー、サポーター、アナライザーというようなタイプがいます。
それぞれの適性を見極め理解した上で、適切な役割や仕事を任せることで、強いチームができあがります。

超えるべき困難に直面したときには、いつも夢を考える

先生のお話を聞いていると、困難に直面しても全て解決できるように思えるのですが、、

超えるべき困難に直面したときは、いつも夢を考えます。
夢を考えているから、どんな困難にも耐えられます。夢から逆算して、選択肢を絞ることに集中するようにしています。

ですが、私も人間なので、時々逃げることもありますよ(笑)。逃げる事や中止が正解の時もあります。
今は止めといた方がいいと思ったプロジェクトなどは、敢えて進行するのをやめます。
夢を叶えるのに必要のない事にはふたをすることも大事だと思います。

1番厳しかった困難はなんでしょうか?

人生困難続きですが(笑)、受験とか国家試験など、一つの基準で周りと比較されることが、1番辛かったですね。
試験は突破しなければいけない通過点なので、正直夢を語ってるだけではいられなかったですね。
なんとか通過できたのは、自分が負けず嫌いだったからだと思います。
また、受験勉強の時も、逆算してやるべきことを見つけるよう自身をマネジメントしていました。

選択をするときの考え方を教えて下さい

私もいつかは死んでしまいます。だから“的野ここにあり!!”といったものを残したいんです(笑)
「この選択は難しそう」とネガティブな思想で選択をするのではなくて、ポジティブな選択を楽しむようにしています。

 

 

まだ未来が見えていない若手の医師や学生へ

若手の医師や学生で、夢を持って突き進んでいる人は珍しいと思います。
学んで真似ること、自分と向き合うこと、困難に直面したら相談できる上司を作っておくことが重要だと思います。

他人と比較して自分のできないことに目を向けるのではなく、目の前の事でまず結果を出して、自分の特性の幅を広げていき、個性を殺さないことが大事だと思います。

PROFILE

的野 多加志
的野 多加志Takashi Matono

所属医院・担当SPECIALTY

飯塚病院 感染症科部長

経歴CAREER

2007〜2009: 福岡県済生会福岡総合病院
2009〜2013: 亀田総合病院
2013〜2016: 国立国際医療研究センター
2014〜2016: 東京検疫所東京空港検疫所支所検疫衛生課 兼務
2015〜2017: 千駄ヶ谷インターナショナルクリニック 兼務
2016〜2017: 国立感染症研究所 細菌第一部
2017〜2019: 飯塚病院 総合診療科
2019〜 : 飯塚病院 感染症科部長

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