アメリカ式医療教育の普及を目指して【後編】

検査値が正常でも潜む病気を診断、生活指導で病気を予防するーそれが総合診療医
総合診療医になろうと思った理由を教えてください。
実は僕は、医師を志したといっても一般的なメジャーな医師のルートである、「研修をして、専門医をとって、研究をして、論文を書いて、どこかの病院で高めのポストについて」といった医師ではなく、クリニックの先生のような医師になりたいと思っていました。そもそも医師を目指したのも、小さいころたくさんお世話になった近所のクリニックの先生に憧れていたからなんです。
ですから、かなり臨床の仕事に気持ちが向いていました。
また、自分が卒業した信州大学で、沖縄の海軍基地で医師をしていた先生が教授として総合診療科ができると聞き、僕もOBですし、アメリカ式の教育を受けてきたし、お役に立てると思い参画しました。
当時は、総合診療科は人気がなくて人手不足だったこともあり、大変でしたが、アメリカ式の良い教育を僕自身もしたいという気持ちもあり、お手伝いさせていただいています。
そして、日本では狭く深く、自分の専門の臓器や分野を持つ医師がほとんどですが、アメリカでは「家庭医療」と呼ぼれる分野があって、外来診療のスペシャリストがいます。
別の言い方をすると、アメリカでは、循環器内科医がいるように、家庭医療医がいるんです。
クリニックの先生に憧れてた僕にとっては、守備範囲広く働くことがやりたいことだったので、外来の診療を専門にやる総合診療医が魅力的でした。
総合診療医の仕事をしていて、やりがいなどを感じた瞬間を教えてください。
アメリカ式の教育を受けて、家庭医療医、総合診療医として病歴と診察が非常に重要だと思っています。
ある時、僕の診療所に、明らかに片頭痛の患者さんがいらっしゃいました。
別の病院では、頭痛がひどいが、検査をしても問題ないといわれ、ロキソニンを処方されたとのことでした。
そういう人に、これは片頭痛であること、片頭痛の仕組み、トリプタン製剤というすごくいい薬があること、ライフスタイルを見直すことである程度予防ができることなどを教えたらとても感謝されました。
片頭痛は決して珍しくない、メジャーな疾患なのにです。
というのも、日本では「片頭痛は診断に七年かかる」と、昔は言われていました。これはなぜかというと、検査で異常が出ないからです。僕はアメリカ式の教育を受けて、検査値のみに頼らず、病歴と診察から鑑別診断を絞り込むという診断のプロセスを学び、余計な検査をせずに片頭痛という診断をつけられるようになりました。
日本の古い教育を受けた医師の方の中には、検査を乱れ打ちし、検査値の結果で異常を示す色の付いた数字のみを見て診断を付けてしまう医師もいます。
また、死なない病気だからと曖昧な診断名を当てて、その場しのぎの治療しかしない医師もいます。
しかし、現実は、片頭痛は死にこそしないですが、QOLを著しく損ね、患者さんはとても苦しんでいます。
家庭医療医だからこそ、そしてアメリカ式の教育を受けたからこそ、そのような人の力になることができたと実感したとき、物凄いやりがいを感じました。
医師のやりがいは、生と死の堺で戦っているのがやりがいだというイメージがありますが、それは一つの側面でしかなく、家庭医療医にはそれとは別のやりがいがあります。
日本の医療は病気の患者を直すことをメインにしていますが、家庭医療では、病気にさせないことも仕事になってきて、そこにもやりがいがあります。
先ほどの片頭痛の症例もそうですが、検査値に異常がなくても潜む病気を診断したり、生活指導で病気の予防をしたりする、それが総合診療医のやりがいだと思います。
すべての患者さんに「親切にすること」
尊敬する先生などはいらっしゃいますか?
現在、聖路加国際病院にいらっしゃる、岡田正人先生ですね。
といっても、僕が勝手に尊敬しているだけなんですけどね(笑)
岡田先生のエピソードを一つご紹介します。
岡田先生は進路相談をされたときに、アドバイスすることを決めていらっしゃっています。
それは、「好きなことをまず選び、好きなことの中から、自分が得意な分野を選ぶ」というものです。好きなことは頑張れますし、得意な分野ならうまくいくので、成功する可能性が高いという考え方です。僕はこの考え方が好きで、よく進路相談されたときにマネして言ってますね(笑)
勝手に尊敬しているだけというのも、実は僕は、研修が終わってすぐにNational Medical Clinicに勤めたので、直属の指導医がいませんでした。ですから、研修医向けのセミナーなどにたくさん通ったりしていたんです。そうしていくうちに、優秀な医師がいたら勝手に尊敬して指導医としてみなすということをするようになり、これがとても効果的で、とても勉強になりました。
医師として働いているときに、意識している言葉などはありますか?
「すべての診断を当てることはできないが、すべての患者に親切にすることはできる」という言葉ですね。
僕ら医師は究極的にはすべての診断を当てたいんです。でもそれは現実的には難しい。だからこそ、できることって、努力を継続するのもありますが、他にもないのか。と考えると、すべての患者さんに「親切にすること」はできるだろうという言葉です。
診断を百発百中にするのが無理でも、診断を当てること以外の側面からも患者さんにアプローチする、というのを常に意識しています。
現時点で、どのような医師になりたいかという将来像はありますか?
そうですね、将来像というより、常に心がけていることがあります。
先ほども申し上げましたが、僕は自分で医師としての腕を磨かざるを得ない状況にあるので、あちこちの勉強会に参加してきました。そこで出会った先生方を勝手に師として一方的に思い込んで、勉強させていただくということをしてるということがまず一つ目です。
もう一つ心掛けていることがあって、やはり医師を続けていくとどこかで「自分より若い人で自分より優秀な人が現れる」ということが起きてきます。
そういう人たちに、余計なプライドを張らずに、「自分より若いけど、すごい。」と素直に認めて、自分から習う、というのを心掛けています。
先輩ですごい人を尊敬するのは簡単です。
しかし、どこかのタイミングで後輩ですごい人が出てくる。
このような後輩医師も尊敬することができることが大切です。
考えてみれば当たり前のことなのですが、意外と医師というのはプライドが自分で思ってるよりも高いことが多いです。
それを自覚して年齢問わず優秀な人に習えると、お互いがハッピーになれますよね。
今回のAntaaのオンライン配信もそういう意味でもいいイベントですよね。
あとは、具体的なことになりますが、今やりたいことというと、ラグビーの試合会場のドクターです。
この前のワールドカップでも会場に入りました!今では、ラグビーのスポーツドクターの指導もしています。
自分の大好きなラグビーというスポーツに医療の面から貢献して、安全な試合環境を作るというのも僕の今のテーマです。
進路に悩む研修医や医学生に向けてメッセージをお願いします!
そうですね、では3つほどメッセージを。
1つ目は、医学生の方に伝えたいことは、部活でも、旅行でも、趣味でもなんでもいいですから、「なにかやっておく」といいです。医師になって社会に出た後だと、純粋にお休みをいただけるのが難しくなります。
ですから、時間があるうちに、やりたいことをやっておきましょう!
2つ目は、今進路に悩んでいる方の多くがイメージしているのは、卒業したら大学病院に就職して、専門医になって、部長職になったり、あるいは開業するとかだと思います。
ただ、例えば僕がやっている仕事はとてもニッチな仕事ですが、そういうのも「あり」なんです。もっと言うと、なんならいつでも変えていいんです。
一回違う道に行ってダメなら元の道に戻る。
これが、医師免許があると可能だというのが医師のすごくいいところですよね。
卒後医局に入って、メジャーなルートを行くのは、メリットも多く、だからこそメジャーなのですが、そうじゃない道を行きたくなったときは、マイナーな道に進んでも大丈夫。僕自身も、海外旅行を重ねてそう思いました。
また、医師免許を持ってると、他の国に行っても、ちゃんと勉強した人として一定の評価をもらえたりするのも大きいですね。
岡田先生の話もそうですが、好きなものをまずやって、苦手なら別な方ということが可能なんです。
3つ目は、自分の指導医は自分の病院だけにいるわけではありません。
特に今はネットの時代ですから、勉強会にもアクセスしやすいです。
医療の世界はもっと広いので、自分で探せばたくさん勉強の機会はあるんです。
医局に入るのが、一番確実で安全な道ではありますが、そうではない道もあるということを知ってもらいたいです。
ぜひ、自分のやりたいことをやりましょう!!
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