言語と医療文化の壁を越えるには

アメリカ式医療教育の普及を目指して【前編】

今回はNational Medical Clinicの医師であり、信州大学医学部の総合診療科にも所属する、田村謙太郎先生にインタビューをさせていただきました。田村先生は海外の方を専門に診療するNational Medical Clinicにて、日常から英語診療をされていて、その経験から、各地で英語診療やアメリカ式の診療の講義もされています。そんな田村先生に、日頃の診療のこと、先生自身のことなどをインタビューさせていただきました。
 
【田村 謙太郎 先生:National Medical Clinic 内科医、信州大学総合診療科 委託講師】

※今回は前編と後編の2部構成でお送りします。
後編では、「総合診療医の在り方とは」「医師としての心構え」の2項目についてご紹介しています。
アメリカで学んだ家庭医療医としての働き方や、田村先生からの熱いメッセージが載っておりますので、後編も是非お読みください。

 後編はこちらから

言語の壁と医療文化の違いがある外国人への診療

普段の診療はどんなことをされているんですか?

National Medical Clinicでは外国人を対象に診療しています。
外国人が対象ですから当然、英語で診療しています。
また、僕自身は横須賀米海軍病院でインターンと研修をしていてアメリカ式の教育を受けたこともあり、診療内容の方も外国人の方と日本人の方の医療ニーズの差を意識しながら診療しています。

なぜ、外国人を対象にしているのですか?

実は、この病院は昔、ドイツ人の医師がこの診療所の前身となるような、在日の外国人だけを診る診療所を作っていたんです。
そのドイツ人の先生は歳を取って国に帰ってしまったのですが、当時の日本人のスタッフの人たちが引き継いで、今でもそれが続いているんです。

どうして、National Medical Clinic に勤めようと思ったのですか?

僕はずっと海外で医師として働ける機会がほしくて、受験勉強のためのバイトとして、働き始めたのがきっかけです。
そこに海軍の時の後輩がいたのですが、その後輩がアメリカに渡米することになり、空いたポストに僕が入ったという形なんです。

余談ですが、そこで受験勉強をしている間に、埼玉医大の医学英語担当教授から英語の授業を非常勤講師でしないかとお誘いいただきました。
後で話しますが、アメリカ式の教育の良い部分を日本に広めたいと思っていたので、いい機会だと思い、引き受けました。
ですから、英語の診療を通じて、National Medical Clinic だけでなく、外でも英語の診療を武器に仕事をさせていただいています。

外国人を対象に絞ることによるメリットやデメリットはありますか?

まず、デメリットですが、単純に患者さんの数が多くはないです。加えて、時事問題の影響を受けやすいです。
例えばですが、東日本大震災の原発事故の時は、多くの外国人の方が国外に移動してしまったことがありました。
ですから、経営は甘くはないと思います。

僕自身で大変だなと感じることはあまりありませんが、人によっては大変と感じるかもしれないと思うことがあります。
それは「日本人の患者さんよりも詳しい説明を求められる」ということです。

外国人の方は、診療の際に「この薬は本当に飲まなければいけないものなのか」や「この検査は本当に必要なのか」などというように、日本人の患者さんに比べて、要求や議論が多い傾向にあります。そのような患者さんにきちんと説明して、分かってもらうということが必要となるのが、日本人向けの医療との大きな違いです。

日本では、まだまだ、医師が言ったことに患者さんが従うという構図で医療が成立していることが多いですが、外国人の方は日本人の方と比較すると権利意識が強く、説明を求められることが多いです。
例えば、風邪をひいた患者さんが来て、薬を処方しようとすると、薬はいらないといわれたり、自分で薬を買うから大丈夫だと言われたりします。

このような患者さんが多いので、大変と感じる方はいるかもしれないですね。

メリットは、実はデメリットと裏返しのような関係です。
例えばですが、週末に日本の救急病院を受診して、月曜に僕のところに受診しに来るという方がいらっしゃいます。

どういうことかというと、英語が苦手な日本人医師が、あまり詳しく説明できなかったうえ、とりあえず検査をして薬をもらったけど、診断に納得できない。
そこで、僕のところに来て、救急の病院ではこう言われたのですが…といった風に話すんですね。
言語の壁に加えて、先ほど言った医療文化の違いもあります。日本のように、とりあえず検査をして、薬を出して…では逆に不安に感じる方もいらっしゃるのです。
そういう方の不安を取り除いてあげることができるのはとてもやりがいを感じる瞬間の一つですね。

常識の通じない世界に行ってみて考えが広がった

ラグビーひとすじの高校時代

まずは、高校時代の時からお話ししましょう。
僕は高校時代はラグビー部に所属していて、ラグビーに3年間明け暮れていました。僕が3年生でキャプテンをしていた時、チームが強かったこともあり、花園(ラグビーの全国大会)に行くことができました。
花園では一回戦で負けてしまいましたが、12月28日までラグビーを満喫しまして(笑)。
センター試験まで2週間ありませんでしたから、浪人することになってしまったのですが、それでも医学部に行きたいと思い、なんとか頑張って医学部に合格することができました。
高校の時は本当にラグビーしかしなかったですね。

海外旅行漬けの大学時代

大学でもラグビーを続けたのですが、もう一つ、本当にやってよかったなと思うことがあります。
それは「貧乏旅行」です。「バックパッカー」とも言ったりしますね。

昔、「なるほどザワールド」という世界中の国についてのクイズ番組があり、それを見て、僕はずっと海外に憧れていました。
でも、高校ではラグビーをやっていたのもあり、それまで一回も海外に行ったことがありませんでした。

そんな感じだったのですが、なんと、大学1年生の時にタイで一番優秀なチュラロンコン大学という大学に夏休みに短期の留学ができる機会がありました。「これは行くしかない!」と思って飛びこみました。
実際に行ってみると、「日本では当たり前なことが世界で当たり前じゃない」ということがたくさんあって・・・。
例えば、その時代のタイは、トイレに紙がないんです。トイレの横に水槽と桶があって、セルフウォシュレットをしろということですね(笑)。
始めは驚いたのですが、なんとこれが物凄い心地よかったんです!
というのも、それまでウォシュレットを使ったことがなかったものですから。 

タイへの留学のほかにも、毎年あった2か月の春休みと夏休みは、すべて旅行しよう!と決め、たくさん海外旅行をしました。
一人で行ったエジプト旅行は、今でも鮮明に覚えています。
まるでRPGゲームに入り込んだかのような、嘘のような本当の話なのですが、当時泊まった日本人の集まるホステルのとある部屋に、宿帳があったんです。

そこには様々な冒険記録が残されていて。それを参考に、仲間とともに夜のピラミッドを見に行きました。
これが昼のピラミッドとはまた違って、本当に神秘的なんです。月明りと星空と、ピラミッドのきれいな三角の陰。忘れられません。
危ない橋を渡りながらも向かったピラミッドは本当にきれいでした。

 

 

学生時代の経験はどのように現在に影響していますか?

まず、ラグビーが医師としての自分に役立ったことが2つあります。1つ目は、医療の世界で非常に重要なチームワークを学べたことです。学生時代にいろんな人と仲良く、時には衝突しながらなんとかやっていく経験というのは、非常に役に立ちました。特にラグビーは、チームワークが非常に重要なスポーツですので、本当にやっていてよかったですね。
2つ目は、医師の世界は非常につながりが強い世界で、出身地が同じだとか、同じスポーツをやっていたとか、そのようなつながりがあることが現実的にとても大事です。ですので、やはりラグビーをやっていてよかったなと思いますね。

また、海外旅行を重ねて、常識の通じない世界に行ってみると、自分の生き方についても「常識は別に破ってもいいし、レールから足を踏み外しても大丈夫だ」という考えが芽生えました。
海外での経験を積むほどに、自分のキャリアも、いわゆる”メジャーなキャリア”から外れたいと思ったならば、外れても大丈夫なんだなと思えてきました。

実は、英語診療は思っているよりも簡単

自分の進路に悩んだ経験などはないですか?

そうですね、悩んだことはそんなになかったかもしれないです。学生時代の時から、自分の興味ある事に素直に従っていたら今に至るという感じなんです。僕は卒後に、横須賀の米海軍の基地で1年間研修を受けました。それも、やはり僕自身が海外に行きたいという思いがあったからでしたしね。

米海軍基地でインターン研修をしていたときのことを教えてください。

米海軍基地での研修もとっても刺激的でした。ナースを探しに行ったら2mくらい身長がある大男がナースだったり、「No pain, no gain, sir!」と言って、靭帯が切れてるのに無理する黒人の方にラックマンテストをしたら、黒人の方の顔が青ざめるのがわかったり(笑)。
他にも、海軍の身分制度など、様々な文化の違いを体感することができ、楽しかったですね。

また、英語診療についてもここで基礎を学びました。
といっても、英語診療は皆さんが思っているほど難しいものではなく、発音が上手じゃなくても伝えることを重視し、練習をすれば険しい道ではなかったです。

日本とアメリカの医療の違い

もう一つ、その米海軍基地での研修で、僕の現在にも影響を及ぼすことが体験出来ました。それは、「アメリカ人の医師は教えるのが、非常に上手」だということです。

現在、各地でアメリカ式の診療について教えさせていただく機会をいただいておりますが、僕が教えるのがうまいのではなく、僕はただ習っただけなんです。
日本の先生は実力は本当にあるのに、教えるのが上手な方が少ないのは、単純に教えてもらっていないからなんです。
習うより慣れろという文化が日本の医師の世界ではまだ残っていて、なんでもかんでも教えてもらいたがる人はあまり好かれないですよね。

でも、僕は米海軍基地で1年間の研修を受ける前に、1週間体験実習に行きました。
その海軍での経験で、アメリカ人の医師が教えるのが上手なうえに、しっかり教えてくれるというのが分かりました。
そして、ここで教えてもらったら、将来しっかり臨床のできる医者になれると感じたんです。

ですから、1週間のインターンの後に、ここで引き続き研修をすることを決意しました。1年間米海軍基地で研修した後も、横須賀共済病院という、海軍基地のすぐ近くの病院で研修をしました。

このアメリカ式の教育を受けたことは本当に大きくて、現在は、アメリカ式の教育を広めることもテーマとして活動しています。
また、外来での英語診療を日本の先生に得意になってもらいたいとも思っていて、「実は、英語診療は思っているよりも簡単なんだ!」というメッセージを伝えるための活動もしています。
Antaaのオンライン配信でも、そのテーマで3回お話させてもらいました。 

 田村謙太郎先生の「オンライン配信」の記事はこちら 
 田村謙太郎先生の『英語で外来診療!』のスライド資料はこちら 

 

 

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