「この骨折はガーデン何型?」と聞かれて答えられますか?
「がーでん??」と不安でいっぱいの方は、是非このページをパッと読むことをおすすめします。
この記事は日本のガイドラインをもとに、ERや整形外科をローテートする研修医に向けて、最低限おさえるべき、骨折の分類、手術術式(ガンマネイル含む)、リハビリについてまとめました。
時間のない人のために目次も用意しています。是非、活用してください。
また、現場により良い知識が届くように、記事を改善しつづけていきたいと考えています。最新論文の追加や加筆修正により、より質を高められる点がありましたら、ぜひAntaa編集部までご一報ください。
※本記事では大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折を合わせて大腿骨近位部骨折と表現しています。
※2018年1月発表のAO/OTA分類の改定の内容も含まれています。
ガイドライン
2011年に発行された日本整形外科学会/日本骨折治療学会の“大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン改訂第2版“がMindsで公開されています。
それぞれの骨折の分類、診断、手術、リハビリ、周術期管理などがまとめられています。
分類
大腿骨近位部骨折の分類は複数ありますが基本的なものが3つあります。
- AO分類 大腿骨頚部骨折/大腿骨転子部骨折両方に対応
- Evans分類 大腿骨転子部骨折の分類
- Garden分類 大腿骨頚部骨折の分類
AO分類
AO(エイオー/アーオー)分類は頭部以外の全ての骨折に使える分類です。スイスにある骨折治療の研究グループが作った分類です。AOの分類はすごく細かい分類なのですが、今回は下記のように覚えてください。
TypeB:大腿骨頚部骨折
TypeCは大腿骨頭骨折となります。詳細は省きますがTypeA、Bの中分類がそれぞれ3つ、さらに小分類で全部で9つになります。
[大腿骨近位部骨折のAO分類の一部]J Orthop Trauma. 2007[1]より引用
AO分類は世界的に使用されている分類で、無料で使えるwebページがありますので参考にしてください(アプリもあります)。[リンク] AO Surgery Reference
※AO分類は2018年に改定されましたがこの記事の内容に大きな変更はありません。
・発表されたJOTの文献がAOTraumaにて公開されています。
・発表された新しいリーフレット
Evans分類
大腿骨転子部骨折の分類です。大転子から小転子にかけてどのように骨折しているかで分類され、大きく「安定型」と「不安定型」に分けられます。安定、不安定で手術方法を決めます(JBJS Br. 1949[2])。
わかりにくいところは、Evans分類をあてはめるタイミングが「整復後」であることです。
つまり、麻酔がかかって牽引手術台に乗せて整復操作をしてみた後、Evans分類をあてはめて考える、ということになります。これを改変したJensen分類という分類も1975年に提唱されています。
[Evans分類]ガイドラインより引用
Garden分類
大腿骨頚部骨折の分類です。頚部の折れ方で4つに分けられています。ⅠからⅣまでありますが、手術方針が変わるのはⅡ,Ⅲです(後述)。これは骨折時の単純レントゲンをあてはめて確認します。現場ではGarden分類Ⅱ型を「がーでんにけい」と読みます。Ⅳ型に近づくにつれて大腿骨頭への血流が途絶えている確率が上がるとされ、大腿骨頭壊死のリスクが高まります(JBJS 1961[3])。
[Garden分類]ガイドラインより引用
これ以外にも日本人が提唱した分類として下記2つがあります。
中野の3DCT分類 大腿骨転子部骨折の分類 (Open Orthop J. 2016[4])
生田分類 大腿骨転子部骨折の分類(Arch Orthop Trauma Surg. 2015[5])
手術術式
大腿骨近位部骨折の手術術式は主に2つです。
人工骨頭挿入術(適応:大腿骨頚部骨折のみ)
特に「骨折観血的手術」は他に
- 骨接合術
- ORIF(Open Reduction and Internal Fixation 観血的整復固定術)
などと表現されることもあります。
いずれも「皮膚切開を行って、骨折した骨を元の位置に整復し、金属プレートや髄内釘などを用いて身体の内部で固定すること」です。
どの骨折でどの術式を選択するかのアルゴリズムのひとつを紹介します(NEJM 2017[6]から引用)。術式選択の根底には大腿骨頭の血流が保たれるかどうか(大腿骨頭壊死の可能性がどれくらいあるか)という概念があります。
※術式選択は世界的にみても地域差、施設差のあることです。ひとつの参考にしてください。
大腿骨転子部骨折の治療は骨折観血的手術のみ
大腿骨転子部骨折では基本的には以下2つの術式から選択します。
CHS(compression hip screw 金属インプラントの一種)による固定
よく「ガンマネイルによる固定」という言葉をきくかも知れませんが、それは “大腿骨転子部骨折の骨折観血的手術のひとつ” ということになります。またガンマネイルという言葉は形が「γ型」をしていること、よく用いられているメーカーの製品名に「ガンマネイル」があることからきています。
つまり一般名詞としても固有名詞としても使われていますので注意が必要です。
ガンマ型のネイルによる固定は、他に「髄内釘固定」と表現されることもあります。
[左 ガンマ型の髄内釘固定/右 CHSによる固定後の単純レントゲン写真] Antaa Slideより引用
CHSによる固定はガンマ型の髄内釘と異なり上の写真のようなインプラントで固定します。
世界的に、大腿骨転子部骨折の治療はCHSによる固定が第一選択というコンセンサスを得ています(cochrane Database Syst Rev. 2010 [7])。ただ最近では、不安定型の骨折(後外側骨片)などで髄内釘を用いることで機能予後が改善すると報告されています(NEJM 2017[6])
︎大腿骨頚部骨折の治療その①骨折観血的手術
大腿骨頚部骨折では骨折観血的手術に加え、この後紹介する人工骨頭挿入術のどちらかを選択します。まず一つ目の骨折観血的手術(骨接合術)は
[ハンソンピンによる固定後の単純レントゲン写真] AntaaSlideより引用
ハンソンピンは商品名です(Stryker社)。他のメーカーのものもあります。転子部骨折で使用したCHSの適応もあります。大腿骨頚部骨折で骨折観血的手術(骨接合術)を選択するのは転位をしていない、つまりGarden分類のⅠまたはⅡ型の場合です。なぜなら、大腿骨頭への血流が保たれていることが高く、大腿骨頭壊死を起こす可能性が低いからです。
大腿骨頚部骨折の治療その② 人工骨頭挿入術
[人工骨頭挿入術後の単純レントゲン写真] AntaaSlideより引用
大腿骨頚部骨折の治療で人工骨頭挿入術を選択するのは、転位をしている、つまりGarden分類のⅢまたはⅣ型の場合です。なぜなら大腿骨頭への血流が保たれている可能性が低く、大腿骨頭を残す骨折観血的手術(骨接合術)を行っても、後に大腿骨頭壊死を起こし再手術となることがあるからです。
※2009年頃から65歳未満の患者で、合併症がなく、認知機能障害がないなど特殊な場合には人工骨頭挿入術ではなく、人工股関節置換術が選択されることも増えてきているようです。ただ、未だコンセンサスは得られていません。(NEJM 2017[6]/JBJS Am. 2014[8]/Clin Orthop Relat Res. 2015[9])
リハビリ
リハビリの荷重開始時期、人工骨頭挿入術術後脱臼、術後の機能予後にフォーカスします。
リハビリのやり方〜荷重〜
推奨される特定のプロトコールはありません。ただ、手術後48時間以内の何らかの荷重開始が歩行機能回復に寄与するとされています。(Med J Aust. 2010[10])
リハビリプロトコールに関しては海外と日本で医療制度に違いがあるため、海外の集中的リハビリケアの文献をそのまま日本にあてはめることは難しいです。
ただ術後早期荷重に関しては日本のガイドラインでも共通しています。
リハビリの注意点〜人工骨頭の脱臼肢位〜
大腿骨頚部骨折に対する人工骨頭挿入術には主に前方、側方、後方アプローチが用いられています。
注意点は術後リハビリでそれぞれのアプローチに応じた脱臼予防のための禁忌肢位があることです。
大まかには
外側アプローチ 内転/外旋 禁止
後方アプローチ 屈曲/内旋 禁止
となります。なぜなら、それぞれアプローチする方向の関節包を切開するため、術後切開した方向へ力が加わると、切開していない部分より脱臼しやすくなるからです。
例えば後方アプローチでは屈曲、内旋すると大腿骨頭により関節包の後方に力が加わり脱臼しやすくなります。屈曲、内旋とは正座を崩したような座り方で起こります。
リハビリの予後〜どのくらい歩けるようになるのか〜
ガイドラインで取り上げられている術後の歩行能力に影響する因子は
- 年齢
- 骨折前の歩行能力
- 認知機能
の3つです。
年齢が若くて、骨折前に杖なしで歩けていて、認知症がない人の方が、そうでない人より、手術後もとの歩行能力を獲得する可能性が高いということです。
またリハビリが始まって2週間の時点で車椅子乗車できていない場合、もとの歩行能力獲得の可能性は12%程度です(Arch Phys Med Rehabil. 2016[11])
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おわりに/参考文献
大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折の分類、術式、リハビリについてガイドラインを中心にまとめました。この記事は、あなたの疑問を解決できましたか?まだ疑問点がある場合は下のコメント欄で筆者に質問してみてみてください。
●参考文献
- J Orthop Trauma. 2007 Nov-Dec;21(10 Suppl):S1-133.
- J Bone Joint Surg Br. 1949 May;31B(2):190-203.
- J Bone Joint Surg 1961;43-B:647-663
- Open Orthop J. 2016 Mar 31;10:62-70.
- Arch Orthop Trauma Surg. 2015 May;135(5):651-7.
- N Engl J Med. 2017 Nov 23;377(21):2053-2062.
- Cochrane Database Syst Rev. 2010 Sep 8;(9):CD000093.
- J Bone Joint Surg Am. 2014 Sep 3;96(17):e149.
- Clin Orthop Relat Res. 2015 Aug;473(8):2672-9.
- Med J Aust. 2010 Jan 4;192(1):37-41.
- Arch Phys Med Rehabil. 2016 Dec;97(12):2076-2084.
- 大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン 改訂第2版
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