誰もが経験する入院患者さんへの胃管挿入. うまくいかない時、次はどうしたらよいのでしょうか.
この記事は、現場で働く医師同士が相談しあうiOSアプリ “AntaaQA” で実際に行われたやりとりの中から初期研修医におすすめの内容を、ご紹介します!
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高齢者で「飲み込んで」の指示が入りにくいような方で、胃管を入れなければならない状況がありますが、何度やっても気管に入ったりして上手く食道に入らない場合、何かいい方法はありますか?
- 口に手を入れて咽頭後壁に押し当てる
- 鼻の穴を変える
- ガイドワイヤーを入れてコシをもたせる
などがありますが、ベッドサイドで簡単にできるコツがあれば教えて下さい。


ここでは病棟での胃管挿入時の胃管の操作と必要な解剖(鼻、咽頭、食道、胃)、そしてガイドワイヤーがなくても冷凍してコシを出す方法について解説します。
恩賜財団済生会横浜市東部病院 耳鼻咽喉科 北村 充 (Kitamura Mitsuru)
胃管の操作は前後+捻り
胃管の操作は基本的には前後方向の操作(押し引き)となりますが、捻りを加えることで左右への方向付けをすることができます(図1)1)。
この操作をうまく使いこなすことが、胃管をうまく入れるコツだと考えます。また、強い抵抗を感じる際は誤った方向に進んでいることが多く患者さんの苦痛も強いため、少し引き抜き、進む方向を変えながら入れていきましょう。
図1 胃管の操作について(文献1「臨床研修プラクティス. 2005 vol.2 No.9」より引用)
解剖を考える〜鼻腔→咽頭→食道→胃〜
胃管は、鼻腔・咽頭(上〜下)・食道・胃の順番に入れていくため、それぞれの部位別に解剖を考えながら説明していきます。実際に入れる時には、先端がどこに入っているかを考えながら進めることが大切です。その際に役に立つのは胃管に記載されている長さですので、それを意識しながら入れていきましょう。
2.1 鼻腔(0〜10cm)
意識下に入れる際には、普段どちらの鼻が通りやすいかを聞きます。全身麻酔などを行う際には、事前に聞いておきましょう。
鼻孔から奥に進める際は、その角度に注意をしましょう。鼻孔は下向きであるため、それにあわせて入れると誤った方向に入れることになります。上に入れるのではなく、奥に押し入れることを意識しましょう(図2)1)。
図2 鼻孔から奥に入れる (文献1「臨床研修プラクティス. 2005 vol.2 No.9」より引用)
2.2 鼻腔から咽頭(10〜15cm)
この部位が最初の通りにくい場所になります(図3①)2)。
基本的には奥に押し入れていけば自然と先端が尾側方向に向かいますが、うまく入らない場合は捻りを加え、先端を尾側に誘導しましょう。また、患者さんの下顎を挙げ、sniffing positionをとることで入っていくことが多いです。うまく入った場合は強い抵抗なく進んでいきます。
図3 胃管が通りにくい場所(文献2「レジデントノート. 2009 vol.11 No.2」より引用)
2.3 咽頭から食道(15〜20cm)
この部位が2つ目かつ最も通りにくい場所になります(図3②)2)。
うまくいかないパターンとして、口腔内にとぐろを巻く、気管内に入る(気管挿管例や反射の低下した症例)ことなどがあります。
図3 胃管が通りにくい場所(文献2「レジデントノート. 2009 vol.11 No.2」より引用)
下咽頭〜食道にかけて、入口部は左右に分かれているので、そのことを意識して入れていきましょう。具体的には、胃管を入れた鼻と逆方向に頭部を回旋することで(右鼻腔から入れた場合には左を向く)同側の下咽頭が広くなり、胃管先端が進みやすくなります(図4)。
図4挿入時の顔の向き(文献2「レジデントノート. 2009 vol.11 No.2」より引用)
意識のある患者さんには、このタイミングで嚥下を繰り返してもらい、胃管を飲み込んでもらうよう誘導してみまししょう。
意識のない患者さんでは、用手的もしくはマギール鉗子などを用い、口腔内から胃管先端をガイドしてあげると、とぐろを巻くことが少なくなります(図5)1)。
図5 口腔内から胃管先端をガイドする(文献1「臨床研修プラクティス. 2005 vol.2 No.9」より引用)
2.4 食道から胃(20〜45cm)
食道では基本的に抵抗はほとんどないため、この長さで抵抗がある場合には、咽頭から食道がうまくいっていないことを考えましょう。45cm以降で抵抗がある場合には食道下端(横隔膜裂孔狭窄部)での抵抗であることが多く、意識のある患者さんの場合には嚥下動作を行ってもらいましょう3)。意識のない患者さんの場合、強い抵抗がある際には無理をして進めず、少し引いて捻りを加えることで通過することもあります。
ガイドワイヤーがなくてもコシを得る方法〜冷凍〜
中にガイドワイヤーが入っていないタイプの胃管の場合、コシがなく上記の通りにくい場所で屈曲しやすくなってしまうため、事前に冷凍しておきコシをもたせるという方法があります。しかし、製品によっては変性を起こしてしまう可能性があるため、事前に確認しましょう。
何より、胃管を入れる操作で一番つらい思いをするのは患者さん本人です。少しでも患者さんの苦痛を減らすため、しっかりと準備をして臨みましょう。
最後に
経鼻胃管は医師になって最初に習得する手技の1つです。そのため簡単に考えて行われることもありますが、実は奥が深く難しい手技だと思います。特に意識のない患者さんに対して行う際にはより難しくなることもあり、その手技について考えていきましょう。
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参考文献
- 臨床研修プラクティス. 2005 vol.2 No.9 : 76-81
- レジデントノート. 2009 vol.11 No.2 : 235-239
- 外科治療. 2007 vol.96 No.3 : 281-288
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