【イベントレポート】森永康平先生ご出演!「医学教育×対話型鑑賞 〜『みる』力の鍛え方〜」

2020/7/17に行われました、獨協医科大学総合診療科 助教 森永康平先生御登壇のオンライン配信「医学教育×対話型鑑賞 ~『みる』力の鍛え方~」をレポート!

診療の上で、患者さんの仕草や表情などを、「観察」する重要性はいまさら言うまでもないでしょう。
しかし「みる力」は学校や現場では教育できる対象として捉えられておらず、個人の経験頼みになっているのが現状です。
米国や欧州では、医学部の学生に芸術作品を題材として観察力や言語化能力を訓練する手法が用いられ、国内でも「対話型鑑賞」が導入され、近年注目されています。
対話型鑑賞は、1980年代に米国で生まれた美術鑑賞法の一種です。
作品の画法や美術史的な情報ではなく、その場で観察して得た気づきや、想像される物語などをグループで対話し、そこで新しく生まれる意味づけを重視しています。
森永先生に、対話型鑑賞の詳細や、実際の鑑賞の様子、医学教育と対話型鑑賞の関係や応用について、お話しいただき、さらに千葉大学の鋪野紀好先生と対談いただきました!

見逃してしまった方は、AntaaのFacebookグループより配信後も視聴可能ですのでぜひご覧ください!

 

登壇者紹介

森永 康平先生 (獨協医科大学総合診療科 助教)

2011年筑波大医学部卒。16年より現職。19年から獨協医大で臨床実習前の学生に対し,対話型鑑賞の手法を中心として診療に必要な能力を高める授業を開講している。今年度より京都芸術大の学際デザイン領域に進学し,芸術修士(MFA)取得をめざす。医療分野でのアートを用いた教育で言語化能力やコミュニケーション能力の向上をめざし、20年にミルキクを創業。

鋪野 紀好先生 (千葉大学医学部付属病院 総合診療科 特任助教)

2008年千葉大学医学部卒。2013年より現職。2015年千葉大学大学院医学研究科博士課程 修了。
2020年 米マサチューセッツ総合病院 医療者教育学 博士課程 修了。千葉大学医学部付属病院卒後臨床研修 副プログラム責任者(協力病院スタートプログラム)
総合内科専門医・指導医、プライマリ・ケア認定医・指導医、病院総合診療認定医。
現在著書は「内科初診外来ただいま診断中!(中外医学社, 2020年)」
また「50のCommon Diseaseから学ぶ診断推論 外来での思考プロセスとマネジメント(メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2018年)」を監訳。
twitter(@kshikino)で医学教育や総合診療についての情報を発信。

『みる力』とは

森永先生
急な質問ですが、モナリザの絵って知ってますか?
レオナルドダビンチの作品で…など有名だし、これまで幾度となくみているので知らないなんてことはないと思います。
それでは本番です、人物の両脇に何が描かれているか覚えていますか?
松木
人物によく目が行くので、あまり記憶にありません。
森永先生
真ん中の女性の左にはS字上の道、右には橋があります。後ろの水平線が左右でずれていたり、突っ込んで細部を覗いてみると結構これまで見逃していたたくさんの事実に気づくことになります。
このようにモナリザの絵の”見逃し”から、人間の脳の特徴を捉えることができます。脳はサボりたがりで、一旦パターンで「モナリザだ!」と認識してしまうと、それ以上細部を見て考えようとせず、次の話題に焦点を移動しようとします。
つまり予測したがる脳はものを見逃しやすいということです。
”考えながら見る”ということは、一見正しそうですし、実際そのように私達は教わります。でも実際は眼前の対象に集中しないと見逃すことが結構あるんです…
ということで、今回は”みる力”をレクチャーさせてください!
 
松木
よろしくお願いします。

対話型鑑賞を始めたきっかけ

森永先生

学生、研修医のカルテやプレゼンを拝見していると、医学的な知識はあるんだけど・・・うまく書けていない、話せていないものが多くて、
さらに渾身の解説やレクチャーをしても本質的なことを理解してくれなかったり、全然伝わってなかったり、悲しい気分になることがありました笑。

原因を考えていると、医学的な知識とは別に言語力不足が背景に有るのでは?と思い至ったのです。この領域を伸ばせばもっと知識を繋げて考えられるのに・・・もったいないなあと感じ始めました。また、学生や研修医が自分で主体的に観て、聞いて、考えて決断できるように導かなくてはと思うようになったのです。
現在の医学教育はどうしても”試験”の存在感が大きく、授業もその影響を多分に受けている思います。ただ試験は構造上、
・問題文に記載してない情報は全て正常である。(回答へ影響する情報は一切なし)
・問題文で記載してある情報は絶対無二の「事実」で疑う余地はない
といった前提が隠れています。なので、答えの出ないような問題、意見が分かれるような問題は初めから出題されないのです(実際試験作成時もそこにかなり注意します。何か物言いが出たら後々大変ですからね笑)。
ただ、実際の臨床ではそんな状況はありえません。
現実の臨床では個人因子に加え、生活・家族・社会的な要因など無数の要素が絡み合い「これが鍵になる重要だよ」なんて教えてくれる人は誰もいません。
またその場で得られる情報の信頼性も絶対的ではなく、自分で必要な情報を診察で取りに行き、さらにその意味を評価していかなければなりません。
そんな教育と現場の解離から、複雑な因子が絡み合った状況や答えがすぐに出せないような状況でも自分の足で立ち続け、また自分の頭で考えられながら動く、きっかけになるような教育ができたらなと思うようになったのです。
そしてせっかく学ぶのなら義務でいやいややるより、愉しく学べたほうが絶対いいですよね。そこで出会ったのが、題材としての広い意味でのアート(題材や考え方)と対話型鑑賞という鑑賞の手法だったのでした。

なぜアート作品なのか?対話型鑑賞なのか?

森永先生
医学的な題材を扱うと、どうしても知識が先にたってしまい、色々考えてくれたけど結局こうだったんだよーと”答え”や”推奨”を提示しないといけない。授業でもグループワークでもそういうことが多かったかなあと思います。その結果何が起こるかというと、いつも似たような少数メンバーがしょっちゅう発言してる、という現象が起こってしまうんです。
アート作品であれば正解の解釈はなく、あやふやな部分があります。でも逆に考えれば、解釈をひねり出す”過程”に焦点を当てて訓練することができるんじゃないかなという期待をしているんです。
次に、なぜ対話型鑑賞なのか?です。対話型鑑賞は従来の鑑賞法の反省で開発されたもので、作品に関する歴史的・芸術的な情報よりも、その場での気付きや対話で生まれた新しい意味形成が重要視されるようデザインされています。
従来の知識伝授型の教育法は効率よく教えられるのがメリットだと思いますが、デメリットとして生徒が何を考えているのか確認できず、また、自分でどのように考えていくかを教えるのが難しいと思います。
逆に対話型の教育は、正直時間はかなりかかる方法なのですが、各自がどんなふうに発見したり考えるのか、要所要所で確認しながらでき、主体的な能力を高められるのか、がメリットだと思います。
松木

ありがとうございます。
医学と美術がどうつながるのかわからなかったのですが、今のお話を聞いて観察をする力がアートから楽しく学べるのだとわかりました。
それでは実際に先日行われた対話型鑑賞の様子をお送りします!

実際の対話型鑑賞の様子

事前に医学生インターン3名と森永先生で対話型鑑賞を行いました。

畑原
三人のおじさんが笑いながら橋を渡っているのかなと思いました。
森永先生
おじさんですか?みなさんそう思いますか?
平手
私はおじいさんだと思いました。
 
相京
自分もおじいさんだと思いました。理由としては、表情の作り方がシワを入れているように感じました。画面越しなのもあるかもしれませんが、目が八の字になっている様子、線の様子が若さよりも歳を重ねている感じを醸し出しているのかなぁと思いました。年齢としては今でいう70、80代かなと思いましたが書かれた時代を考えると60代かなと思いました。

議論はさらに活発になります。

畑原
真ん中に線があってこれが何なのか気になります。
相京
僕は屏風の一部なのかなと思いました。
左右に絵が続いていて、これはストーリーの一部なのかなと思いました。ストーリーの場面転換の中で、今写っている部分の後ろの滝との高さのずれというのも説明できるのかなと思いました。
松木
左側は水で、足場のところに水面が写っているような部分がありそこは水で、真ん中から右側は浮いているように見えるので空間を表しているのかなと思いました。
 
森永先生
こちらの作品は虎渓三笑図屏風というものでした。
虎渓三笑は意気投合し、談笑するのを楽しむという様子を示す諺として用いられます。
対話型鑑賞は自分がその場で見て気づいたこと、他のメンバーで対話して生まれた意見、意味付けが最優先されるようデザインされた空間だと思っています。

対話型鑑賞のエッセンスは医学教育に大きな可能性を持つのではないでしょうか。

 
 

千葉大学、鋪野先生との対談

森永先生

先生が学生さんや研修医に教えるときに、役立ちそうなものはありましたか?

 
鋪野先生
自分は臨床現場に来ている学生、研修医を教える機会が多いのですが、洞察力を養うのにこの考え方は使えるのかなと思いました。一枚の手の写真を見て、その人の職業や背景にある病気が分かったり、いろんなことが見えると思います。シャーロックホームズってワトソンと出会った時、あなた医者ですねって当てちゃうんですよね。ああいう洞察力って一人で悶々としても分からなくて、みんなで色々思ったことをディスカッションすると養われるのかなと思いました。
森永先生

実際、絵に描写されていることを言葉で表現してもらうと、例えば最初だと足なのか手なのか区別もつかないような発言も目立ちます。でも練習をしていくと大きさや色調、分布など客観的に伝えられるよう、短時間で成長していくのが授業でやってみて感じています。

 
鋪野先生
今回はアートなんですけど、実際のリアルの診療でも見方ってありますよね。歩き方の様子を見るのも、じゃあまず手を見る、足を見る、歩く歩幅を見る、歩く速度を見る、など見るポイントがありますよね。そういうのを体系的に見るのも大事だし、それに気づくのも大事だし。
森永先生
今まで考えながら見るようにと教えてたんですけど、改めて考えると、考えながら見ていると結構見逃すなと思って。見ることに徹するフェーズも絶対必要なのかなと思います。
 
鋪野先生
フォーカスしてみるのも大事ですし、フラットにぼやーっと全体像を掴むために見ることもあります。
その上でクローズに見ていったりだとか、実際に使い分けしてます。
フォーカスして取りに行く見方するのも大事なんですが、そのフォーカスが間違っている場合もあるので気をつける必要があります。
医学教育×アートってすごく新しいと思っていて、森永先生が今回鑑賞を掛け合わせていたと思うんですが、僕が聞いた話だとアートの中でも演劇と掛け合わしたものがあります。
患者さんの受け答えに対してその場でどういうレスポンスをするのかという、即興力ってコミュニケーションでも大事で、ハーバード大学医学部でも実際に即興力のトレーニングを取り入れてるんですよね。
これからの医学教育は芸術とかの観点もうまく取り入れていくことでうまく効果出せるのかなと思います。
森永先生
考えるといろんなものが題材に応用できそうですね!
鋪野先生
洞察力は本当に知識だけでもできないし、それを応用する力がないとできないのでこういったトレーニングはいいですね。

森永先生にとってのつながりとは

森永先生

自分一人では手に入れられない美味しいものに繋がる可能性そのものだと思います!

本日はありがとうございました。

医学生インターン 平手の感想

“対話型鑑賞“というワードは今回の配信が決まった時に初めて知りました。収録前はアートと医学教育がどう関連するのか、収録で一体どんな医学知識を聞かれるのか…とハラハラしていましたが、森永先生が進行してくださった為、楽しく対話型鑑賞を実践することができました。

一枚の絵を鑑賞する中で自分の価値観や思考の癖に気付けたり、他の医学生インターンのの着眼点が新しく、面白い絵の見方や考え方をしていて、とても刺激的でした。

今私は5年生で病院実習も始まっているのですが、森永先生と鋪野先生がおっしゃっていたように患者さんの歩き方の見方や会話の仕方など、対話型鑑賞は臨床に活かせる部分が多くあると思いました。上の先生が書いたカルテばかり見るのではなく、自分で患者さんを診て、考える力を養うためにも、日頃からそうした『みる力』のトレーニングとして対話型鑑賞は医学教育に大きな可能性を生み出し、低学年の頃から洞察力を磨くことができるのかなと思いました。

森永先生、この度は対話型鑑賞のレクチャーありがとうございました。今回学んだ対話型鑑賞を実習でも活かせるよう、日頃からアートに触れ、友人とディスカッションしたり、広い視野を身に付けたいです。

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