新しい検査技術や効果的な薬を駆使できるようになった現代の医療現場ですが、近年臨床推論の重要性も叫ばれるようになっています。
2020年8月8日に「臨床推論の教科書 ~彼らは何を考え診断したのか~」と題し、ドクターGなどでおなじみの総合診療医として臨床の最前線にいらっしゃる3人の先生、千葉大学医学部附属病院総合診療科 鋪野紀好先生、江東豊洲病院総合診療科 原田拓先生、市立奈良病院総合診療科 森川暢先生に臨床推論の醍醐味と上達のtipsについて対談頂き、オンライン配信致しました。
どのように臨床推論を勉強したか

学生教育や研修医の教育などが話題に上がると「先生は臨床推論をどのようにして勉強したんですか?」って、頻繁に聞かれるんです。
原田先生と森川先生もよく聞かれると思うので、そのあたりを聞いてみたいなと思っています。
まず私の場合ですと、臨床推論を勉強したのはカンファレンスで実際に経験したということが大きいです。
カンファレンスにいると、エキスパートと言われる人たちの診断プロセスがカンファレンスで共有されます。
それを聞くと、座学だとなかなか学べないところも聞けて、すごく勉強になったというのが記憶に残っています。

僕の場合も、東京GIMカンファレンスという、毎月第2金曜日に国立国際医療研究センターで行われている公開ケースカンファレンスに参加しました。
そこには忽那先生とか、國松先生、志水先生とか、都立多摩の綿貫先生とか陶山先生など、すごいスーパー軍団がいらっしゃるんです。
タダで聞けるという表現が適切かはわからないんですけども、色々カンファ中にわーっと言われて、先生方の解釈や思考回路が分かるのはかなり後ってこともあるのですが、鋪野先生がおっしゃったように、プロの方たちがどういうプロセスで考えているのかを生で聞けるというのが、耳学問と言われるように、自分の学びの糧の一つだったのかなと思っています。
症例提示を通じて、臨床推論、現場でのマネジメントを学ぶカンファレンス。参加対象は臨床現場に関わる医学生、若手医師、 指導医、医療職の方で、毎月第2金曜日19時半-22時ごろ、偶数月は国立国際医療研究センター病院、奇数月は都内または関東圏の病院で開催している。
【facebookページ:https://www.facebook.com/TokyoGimConference】

ERで、内科救急をどう診るか?というところから始まり、独学で自分なりに勉強していたところ、僕の恩師である上田 剛士(たけし)先生に教えて戴きました。
他には、診察エッセンシャルズという、ポケットに入るサイズの本で勉強しました。
それをずっとポケットに忍ばせて、診察の問診票に主訴で胸痛があると書いてあるならば胸痛のページを事前にずーっと読む、ということをししました。
また、先生方と同じく、丸太町病院で働いていた時に症候学のカンファレンスを週に2回やっていたので、そこでみんなで推論を行っていました。
指導してくださった先生が「自分ならこう考える」ということを助言してくださったりしてすごく勉強になりました。
そして、GIMカンファレンスたまに行かせてもらったときに、この症例はこう考えるんだということ勉強しました。
やはりERで上田先生に教えてもらったことが一番のベースになっていますね。

森川先生の話だと実際の個人での診察経験+書籍などで勉強し、かつエキスパートからのオピニオンをうまくピックアップされているのでしょうね。


現場のリアルな雰囲気は、やはり経験としてすごく大事ですよね。また自分の話に戻っちゃうのですが、私は現在、今千葉大学の総合診療科で働いているのですが、師匠は生坂 政臣先生(千葉大学総合診療科教授)です。
臨床実習でローテートした時に。生坂先生の診察をみさせてもらう機会がありました。生坂先生が病歴を丁寧に聴取して、そこから長い年月診断のつかなかった患者さんの診断を出す現場を見て、すごく感銘を受けました。 それからよく千葉大総診のカンファレンス足繁く通うようになりました。
この体験が、自分が総合診療科の道を選んだきっかけでもあるんです。 エキスパートは、ケースのメッセージをコンパクトに伝えてくださるんです。 「このケースってここがポイントで面白いところだよね」と。 生坂先生のようなエキスパートの共通点のひとつに、ケースのポイントをコンパクトに言語化するのがとても上手いということが挙げられます。
ということで僕は、お二方の師匠の先生方で、こんな所がすごかった!など気になっています。

獨協総合診療科の志水先生からも学んで、やっぱ真似できるところと真似できないところがあります。
獨協では、例えばNEJMのMGH(米マサチューセッツ総合病院)のケースレコードを一つ取り上げて、皆で鑑別を挙げたりする事がります。
志水先生がSystem2ベースに鑑別を上げると凄まじい数が網羅的に出てきます。結構もうMGHの病歴のところで切ってあげるように皆トレーニングしてるんですけど、やっぱなんだかんだいって当てるんですね。
そのような方法を見ることができ勉強になりました。
獨協総診での学びで良かったのは「ピボットアンドクラスター」です。
例えばPMRと高齢発症の関節リウマチはかなり臨床像が似ています。
臨床像が似ている疾患の集団をクラスターと呼んでいます。
そのクラスターの探し方や、紛らわしい疾患の鑑別の仕方や文献検索など、様々なテクニックをスタッフと一緒に学べたというのは大きかったですね。
Pivot and Cluster Strategy(PCS) : ピボット・アンド・クラスター戦略
直観的診断を軸(Pivot)とし、その疾患に近い鑑別疾患群(Cluster)を同時に想起し、見逃しを防ぐ戦略
https://www.nejm.jp/howto/cps01.html より引用
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3508570/

そのPCSのようなmethodologyを聞いて、あっ確かにそういうのやるかもって共感できました。
すごく勉強になりました!ありがとうございます。
森川先生にも、師匠のお話聞いてもいいですか?

(僕の師匠の)上田剛士先生はあの、師匠というにはおこがましくて、あの方は神ですので。笑

とはいいましても、お世話になったので恩師でもあります。
凄かったですね、臨床の現場ではもう。
多分ですね、経験と知識がすごすぎて、上田先生は、一回経験をした症例に関してすさまじい量の論文を読みまくって圧倒的に深めるということをずーっとやり続けた方ですので…
教育回診では「JAMAの何年のあの論文のあそこに書いてあったよね、知ってるよね?」的なこと我々に行ってきて「いやいやいや知らないっす笑」みたいなことを皆でやるのが定番です。
症例カンファレンスなどで僕らに対してレクチャーをする時、推論のフレームワーク的なものを多用されます。
僕らに伝える時、例えば臨床推論のケースカンファレンスをやるときは発熱だったら感染症、膠原病、腫瘍、薬剤の4つでまず考えようとか。そういうフレームワーク的なことをカンファでは多用されていました。

エキスパートの方ってこう、話聞いてから診断まで、僕らが迷っているところをジャンプするように、フッて飛ぶんですよね。笑
でもそうじゃなくて、そこから遡って、じゃあどうやって診断したのとか言語化している。
そのmethodologyの一つが森川先生のおっしゃったフレームワークを使ったり、清水先生のおっしゃったピボット・アンド・クラスターなんですね。
↑終始和やかかつワイワイとしてた雰囲気で対談が行われていました!
コメントからの質問等
新しい疾患やケースレポートなどの医学情報を仕入れるために、
定期的に取り入れている習慣はありますか?

雑誌ってものすごく種類が豊富なので、自分の趣味趣向に合う雑誌っていくつかあるんですが、いち早く情報を把握するためにSNSなどを使っています。
自分の場合ですと、Facebookで発信されているのをキャッチしています。
また、いくつかの雑誌は購読して、まず目次を見て、興味のある記事をピックアップして読むというのは習慣にしています。
原田先生はいかがですか?

僕はSNSで見かけた情報はクリックして調べるようにしていたり、ジャーナルを決めて購読しています。
新しい疾患概念や、鑑別診断で知らないケースを見つけたら検索して勉強しています。
やはり定期的に新しい情報を読むのは大事だと思います。


お恥ずかしながら、読みたくても時間的に読めないときがあります。
代わりにPodcastでNEJMとJAMAの論文が聴くことができるので、よく使っています。

あれはいいですね!

それと僕もTwitterとかのSNSですね。
フォローしている先生が紹介している論文で気になるものを見ています。僕は将来的に研究したいなと思っているので、自分の興味ある分野の論文などはしっかり読むように心掛けています。
僕はどちらかというと定期的に調べるより、症例で悩んだ時に集中して、ガッと深く調べる方法を好んで実施しています。

ブログも最近、役立つ情報を発信される方が増えてきて、とても勉強になりますよね。
長野広之先生のブログとか、吉田常恭先生のブログが好きで読んでいます。 すんごく勉強になるんですよね! ブログの記事読んでて、「悔しい!それ俺言いたかったのに!」とかなる事もあります笑 「言われたーー」みたいに思いながら楽しんで読んでます笑
でも、ちゃんと情報収集を続るのは、根性が必要ですね。

そうですね、最近はサボりがちになってしまっています。。笑

お二方に質問したいことがあります。
問診のとり方で意識していることってあるりますか?
なんでこんな事言うのかっていうと、やっぱり臨床推論の基本にあるのは、正しい情報を得る事だと思うんです。
情報を組み合わせるって作業も必要ですけれど、正しい情報がないとそもそも話にならないじゃないですか。
僕が勉強したてのころは、自分が取った問診と、生坂先生などのエキスパートが取った問診で、同じことを聞いているのに患者さんからは全然違った解答が返って来ていたんですよ。

なんでそういう風になるのかなと考えました。
すると、エキスパートは患者さんの日常生活をイメージして話を聞くのが上手いんですよね。
なにかコツが有るのかなと思って前から勉強させてもらっています。
問診のとり方のコツ、原田先生何かありますか?

私も「イメージできるようになるくらい話を聞く」です。
志水先生がおっしゃっていた、映像化しましょうというお話を聞き、実践しています。

そうですね、問診の回答を映像化して患者さんの状況をイメージする方法はよく言われていますね。
森川メソッド、って何かありますか?笑

昔聞いて衝撃を受けたのは、「突然発症の頭痛」の「突然」の聞き方です。
僕が聞くと患者さん本人は「突然発症」っていうんですけど、上田先生がその後聞いた所、突然発症では無かった、という出来事がありました。

それそれ!そういう事がありますよね!

やっぱりそれもイメージなんでしょうか。
「突然」とは言っても、その細かさが違うということでしょうか。
突然と言うのは一応0の状態からmaxの頭痛が来るって感じなので、そこをどこまで詳しく聞けるかという違いが大きいのかと思いました。
その経験で学んだお陰で、僕は最近、ネチネチときちんと本当に突然発症なのか聞くようにしています。

お二方とも共通していてすごく嬉しかったです!
キーワードは、「映像化」と「具体化」ですね。
「診断に自信が持てないので困っています。確実に診断するにはどうすればいいのでしょうか?」

やはり、皆さんおっしゃることですが、丁寧に問診をすることが何よりも大事だと感じます。
私は、丁寧にと言うのは、ただただ話を聞くということじゃなくて、「細かく聞く」「映像化して聞く」「患者さんをイメージして聞く」という事が正しい情報を得ることに結びつくのかなと思い、すごく大事にしています。
原田先生どうですか?

僕は、しょっちゅうピットホールにハマっているんですけども笑。
やはり診断のプロセスという考え方だと、自分で患者さんのフォローアップをする事が一番勉強になると思います。
フォローアップして経過を見て、ちゃんと良くなったって所を確認するっていう癖をつけると、個人的な経験だと、救急外来で1回だけポンって見るよりも、2回目3回目4回目、人によっては数ヶ月かけてようやく分かったって人もいらっしゃいます。
自分で患者さんをフォローアップをして事は大事だと思っています。

アウトカムの確認をしないとダメですよね!本当にそう思います。
森川先生いかがですか?

そうですね、フォローの大事は、正に仰る通りですね。
僕は最近になってpsychosocial(心理社会的)な問題を最初から結構問診で聞くようになりました。
その要素がどれくらいあるのか注目しています。
逆にpsychosocialな要素は、この患者さんは全くなさそうだなって思ったときには結構エンジンをかける事があります。
psychosocialな問題がなさそうなのによく鑑別がつかない時は、國松先生が書いていらっしゃった「ニッチなディジーズ」の様に、ニッチな疾患かもしれないと考えます。
後は、自分がただ知らないだけの病気のcommon disease presentationかもしれないと思うと、調査し尽くします。
粘れるまで粘って、それでもよくわからない時にはエキスパートに聞き、フォローします。
ある意味愚直さが求められると思います。
「若年女性の発熱」といったようなセマンティック・クオリファイアー(SQ)から鑑別疾患を挙げるトレーニングを積んでいきたいのですが、SQはどのようにストックしていけば良いでしょうか?」

僕はやっぱりリストを作っています!

自分で調べた時にどんな鑑別があがってきたのか履歴の一覧を作っています。
10年前とかに作ったものでも、最新情報でブラッシュアップされていくので、それをコツコツ積み重ねています。
Gノート2020年8月号の掲載に関してひとこと
Gノートの8月号になんと先生方の掲載が乗っているって聞いちゃいました!!
おすすめのポイントをぜひ教えてください!
Gノートとは?
忙しい臨床医師がバランスよく知識をアップデートするのに最適な、地域で多様な疾患・患者さんをまるごと診る医師のための実践雑誌。(羊土社出版)
https://www.yodosha.co.jp/gnote/book/9784758123471/index.html

Gノートの2020年8月号では「問診力アップのためのスモールティーチング」という特集を担当させていただきました。
それぞれのエキスパートが問診する時、ちょっとしたものだけどもこうするともっと効果的に聞けるよ!というテクニック・コツがあるんですよ。そうしたテクニック・コツを集約した一冊に仕上がっています!
先生方にとって、「つながり」とは。

つながりとはパワー。
本当に困った時に相談できる仲間や、今日の森川先生と原田先生みたいにこうして話ができる仲間が自分にとって凄くパワーになると感じています。

つながりとは、お互いに影響し合うということです!

つながりとは、光。
過去にウルトラマンとして変身する人たちの「光」が繋がっていくストーリーのウルトラマンネクサスより戴きました。
ウルトラマンネクサスでは、歴代のウルトラマンに変身する資格がある人たちの「光」が繋がり、主人公に最後に受け継がれるというストーリーがあります。色々な人の思いを引き継ぎ、他の先生方などから教えていただいた極意などとともに次の世代に引き継いでいきたいです!
今回初めて記事の書き起こしと編集を担当させて頂きました、医学生インターン1期生の村越と申します。
基礎医学が始まって間もない自分にとって初めて聞く病名や診断方法も多く、刺激的な対談でした!
臨床推論に日々取り組み、目の前の患者さんを診断、治療していく総合診療医の方々のお話をじっくりお伺いする事ができ、医学に対するモチベーションだけでなく総合診療医に対する印象も大きく変わりました。
カンファレンスでの情報共有や他の専門分野を持つ先生方へのコンサルトなど、医師間の「つながり」が総合診療の要となっているのだなという事をひしひしと実感できました。
現場の判断を助ける医師同士の質問解決プラットフォーム「AntaaQA」
「外来で、専門外の症状の診断に不安がある。経過観察をしようか迷う」
「当直で、レントゲンで骨折を疑ったが、読影に不安がある。他に人を呼ぶべきか判断に迷う」
そんな時、AntaaQAでいつでも即相談することができます。
第一線を走る医師たち・同じ悩みをもつ医師に質問ができ、判断に迷ってたあなたの悩みを解決に導く、医師同士の質問解決プラットフォームです。
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