2019/07/24

糖尿病性腎症の患者での血糖コントロール〜糖代謝の特徴と目標設定, 経口血糖降下薬・インスリン療法〜

 

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木村真依子(きむら まいこ) 千葉大学医学部付属病院腎臓内科/内科認定医/腎臓専門医・透析専門医取得中/糖尿病学会会員。2018年度より大学院に入学し、新しい環境でネズミと格闘しながら未知に挑戦している。 千葉大学腎臓内科は2017年生まれ変わりました!生まれたての腎臓内科を共につくっていきませんか? http://www.m.chiba-u.jp/dept/nephrology/

腎機能障害のある患者さんでの血糖コントロール. インスリン導入のタイミングはいつなのでしょうか.

この記事は、現場で働く医師同士が相談しあうiOSアプリ “AntaaQA” で実際に行われたやりとりの中からプライマリケア医におすすめの内容を、ご紹介します!

また、現場により良い知識が届くように、記事を改善しつづけていきたいと考えています。最新論文の追加や加筆修正により、より質を高められる点がありましたら、ぜひAntaa編集部までご一報ください。

糖尿病性腎症の患者の血糖コントロール〜糖代謝の特徴と目標設定, 経口血糖降下薬・インスリン療法〜

糖尿病性腎症の患者さんの血糖コントロールについて質問です。

インスリンによるコントロールが一般的だと思っているのですが、具体的にどれくらい悪くなるとインスリン導入になりますか?

また内服などどのように選ばれているか教えてください。

内科3年目

糖尿病性腎症では、すでにeGFRが下がっていたり、タンパク尿が0.5g/gCr出ている場合、早い経過で(人によってはeGFR15-20/年下がる人もいるくらい)いるので、退院後の経過も踏まえて内服するなら腎機能が悪くても使いやすい物を使ってます。

自分の周りですと、

αGIとDDP_4を併用してなんとかコントロールが出来ればOK、無理ならBOT(Basal Supported Oral Therapy)にしてます。

具体的には

  • ベイスン0.3®️ 3T3X
  • トラゼンタ 5®️ 1T1X

ベイスンは腹部膨満の副作用は良くでます。低血糖時はICUだったら点滴で対応のほうが良いです。前の施設ではグルファスト®️をさらに使ってました。

腎臓内科5年目

腎機能障害が進むと、インスリン抵抗性が増大しますが、それ以上に排泄が遅延して、一般的には糖尿病はよくなります。

Ccr10〜50だと、インスリン75%、Ccr10以下だと50%に減量ともいわれています。なのでインスリン導入しても、腎機能とともに調整、内服に切り替えもあります。参考までに(^^)

内科6年目

Dr.Kimuraの “ポイントレクチャー”

ここでは糖尿病性腎症の血糖コントロールに関して、腎不全時の糖代謝の特徴、血糖コントロール目標と具体的な処方例、インスリン導入について解説します。

千葉大学医学部附属病院 腎臓内科   木村真依子

1. 糖尿病性腎症の3つのポイント

腎症発症症例の糖尿病管理で大切なのは、次の3つを判断することです。

  1. 管理目標値を緩める必要があるか
  2. 食事指導, 運動指導の変更が必要か
  3. 薬物療法の変更が必要か
この判断にあたっては腎症の病期の他に, 合併症の程度も考慮する必要があります.

2. 慢性腎不全症例の糖尿病診療の注意点

HbA1cは本来の値より, 低値を示すことがあり注意が必要です.

慢性腎不全で赤血球寿命が短縮している場合があることや, 腎性貧血の治療のためのエリスロポエチン製剤投与により幼弱赤血球の割合が増えるなどの要因があります.

グリコアルブミンも尿タンパクが多い場合は, 血中アルブミンの代謝半減期が短縮するため, 血糖に比して低値を示すので注意が必要です. 従って, 腎機能が低下している症例の血糖管理は, 実際の血糖値を確認しながら行う必要があります(1,2).

 

また, 腎不全での糖代謝の特徴は下記2点です.

  • 腎臓における糖新生の低下
  • インスリン分解、インスリンクリアランスの低下(インスリンの半減期が長くなります)

このため, 腎不全期になるとインスリン必要量が減少したり, 血糖が低下する症例がよくみかけられます.

※インスリン分解とは:
分泌されたインスリンの約40 %は腎臓で分解されるため, 腎不全ではインスリンの分解が低下します(2).

※インスリンクリアランスとは:
血中でのインスリンの消失速度を表しています. 腎不全では腎臓でのインスリンの分解・排泄が低下する結果, 血中のインスリンは消失しにくくなります.

3. 腎不全時の血糖コントロール目標

糖尿病腎症病期とCKD重症度との関係は、糖尿病治療ガイド 2018-2019 日本糖尿病学会, 編.のp87に表としてまとめられています (3).

CKD重症度は, GFRと尿蛋白で分けられます. 重症度が上がるほど, 死亡, 末期腎不全, 心血管死亡発症のリスクが高くなります  (6).

糖尿病性腎症発症進展阻止に血糖コントロールは有効であり, 比較的若く低血糖リスクの少ない症例ではHbA1cの目標値は合併症予防のための目標値とされている7.0 %未満です(1)

第2期(早期腎症期:eGFR ≧30ml/分/1.73m2 , 尿中アルブミン/Cr比が30-299mg/gCr) は, 血糖および危険因子の管理により, 改善します(4).

一方, 第3期以降(顕性腎症期:eGFR ≧30ml/分/1.73m, 尿中アルブミン/Cr比が300mg/gCrまたは尿蛋白/Cr比≧0.5)は病期の改善, 進展阻止が可能な場合もありますが, 管理目標を達成していても腎症が進展してしまう場合もあります.

したがって, 腎症が進展している症例で, 忍容性が低下している場合は, 低血糖リスクを考え, 血糖コントロール目標を緩める場合があります.

例えば, 糖尿病性神経障害により無自覚性低血糖の危険性や,  低血糖により虚血性心疾患, 眼底出血誘発などの危険がある場合などです.

4. 腎不全時の血糖コントロール方法

 4.1 食事療法, 運動療法

腎不全時の血糖コントロールは, 糖尿病腎症での管理と同様にまずは食事療法, 運動, 体重管理が基本となります. 

糖尿病治療ガイド 2018-2019 日本糖尿病学会, 編.のp88-89に糖尿病腎症生活指導基準として食事療法(総エネルギーとタンパク質), 運動療法の程度がまとめられています (3).

それでも管理目標値に達しない場合は, インスリン治療や経口血糖降下薬を検討します. インスリン分泌能が低下している場合や腎不全で使用可能な経口血糖降下薬にて十分な血糖コントロールが得られない場合はインスリン治療の導入を考えます. 経口血糖降下薬の具体例は下記に記載します. 

なお, 運動に起因するトラブルは色々ありますが, (a)低血糖, (b)熱中症, 脱水, (c)足病変, (d)内臓への負担(心臓, 腎臓など), (e)血圧上昇は, 腎症がある症例では発症のリスクが高くなるので, 個々の症例の病態を把握したうえで, 指導する必要があります. 最初は歩行時間を増やすなど無理のない程度に身体活動量を増加させることより始め, 段階的に運動量を増加させていきます. 歩数計の使用は有効な手段となる場合があります.

 4.2 経口血糖降下薬

実際の現場では低血糖症状に注意しながら使用します. 個々の薬物については以下の通りです(1,6,7).

薬剤名 贒不全時の注意点
DPP4阻害薬

比較的使用しやすい。ただ減量する必要のある薬剤もあり.

▶︎使用例:リナグリプチン(トラゼンタ®) 1回5mg 1日1回 朝食後

GLP-1受容体作動薬

禁忌, 慎重投与になる薬剤あり. 神経障害で胃腸の蠕動低下により食欲が低下している患者は, さらに食欲低下する場合あり.

▶︎使用例:リラグルチド(ビクトーザ®) 1回0.3mgから開始, 血糖見ながら必要に応じ徐々に増量します.

αグルコシダーゼ阻害薬

腎不全時は慎重投与ですが, 減量の必要はなし. ミグリトール(セイブル®)は一部尿へ排泄されるため, 蓄積による血中濃度上昇に注意が必要.

▶︎使用例:ボグリボース(ベイスン®) 1回0.2mg 1日3回 毎食直前

速効型インスリン分泌促進薬 低血糖を起こしやすいため, 慎重投与. 
ナテグリニド(スターシス®, ファスティック®)は末期腎不全には活性代謝物が蓄積することによって低血糖が起こりやすいため禁忌.
SU薬 遷延性の低血糖の危険が高いため, 末期腎不全には禁忌 
中等度腎不全でも,なるべく使用しない.
ビグアナイド薬 乳酸アシドーシスの危険があるため, 軽度腎不全から禁忌. メトホルミン(メトグルコ®)は中等度腎不全で禁忌. 
チアゾリジン薬 本邦では末期腎不全には禁忌.  軽度〜中等度腎不全では慎重投与. ナトリウム貯留に伴う浮腫増加, 心不全の副作用にも注意が必要.
SGLT2阻害薬

中等度腎不全では慎重投与,末期腎不全では投与しない.

SGLT2阻害薬投与で多尿が起こることがあり, 多尿による脱水は, 腎不全患者では, より影響が大きいので, 慎重に使用する必要あり.

利尿剤を使用している症例の場合は, 利尿剤投与量の調節を検討する場合あり. また, 尿路感染にも注意が必要.

<表1 各経口血糖降下薬と注意点>

※SGLT2阻害薬の腎保護作用の可能性
エンパグリフロジン(ジャディアンス®)が心血管疾患リスクの高い2型糖尿病患者(eGFR ≧30 ml/分/1.73m2)に対して, 腎症の発症・悪化, 腎代替療法の導入を低下させたとの報告がありましたが, これはサブ解析の結果でした(8). 2型糖尿病患者(eGFR ≧30 ml/分/1.73m2)に対して腎アウトカムを主要評価項目とした試験が行われ, カナグリフロジン(カナグル®)が腎保護効果があることが立証されました(9). 今後のエビデンスの集積とともに, 使用症例が増えていくことが予想されます.

 4.3 インスリン療法

腎不全時は, 使用できる経口糖尿病薬が限られてくるので. インスリンが必要になる場合があります. 但し, 腎機能が低下するに従ってインスリンクリアランスが低下し, インスリンの必要量が減るため, 自己血糖測定を見ながら超速攻型や持効型インスリンを減量するなど処方の調整が必要となります.

このように, 腎不全時には, 糖代謝が変化することを知り適切なモニタリングで個々の症例によって調整していくことが大切です.

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5. 参考文献

  1. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018, 108-109, 日本腎臓学会, 編.
  2. 糖尿病専門医研修ガイドブック 改訂第7版, 411, 日本糖尿病学会, 編. 2017
  3. 糖尿病治療ガイド 2018-2019, 87-89, 日本糖尿病学会, 編. 一部改変.
  4. Diabetes. 2005 Oct;54(10):2983-7. PMID: 16186402
  5. Semin Dial. 2004 Sep-Oct;17(5):365-70. PMID: 15461745
  6. CKD診療ガイド2012, 115-116, 日本腎臓学会, 編.
  7. 各薬剤添付書
  8. N Engl J Med. 2016 Jul 28;375(4):323-34. PMID: 27299675
  9. Am J Nephrol. 2017 Dec 13;46(6):462-472. PMID: 29253846

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