心不全診療でよく用いるBNP、なぜ氷水につけるのでしょうか。
NT-proBNPとの違いに注目してみていきます。
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当院ではBNPもNT-proBNPも両方測定できるのですが、後者をオーダーするタイミングがよく分かりません。
保険診療的な部分も含め両者の使い分けはありますか?


在宅診療で往診に行く時に、BNP採血お願いしますと看護師さんにお願いしたら、うちの先生方はNT-proBNPなんですよ、と言われた事を思い出しました。
BNPは不安定なので、すぐに検査に提出するか、冷蔵しないといけないようです。NT-proBNPは室温で大丈夫なようです。
個人的には、NT-proBNPは在宅診療で専ら使っていて、院内で測定するときはBNPのみ使っていました。もちろん経時的な推移が間接的な病態把握に役立つので、どちらか一方を継続して出しています。
ここではBNPとNTpro-BNPについて、生理、生化学的側面、採血・保存方法と、心不全診断・除外におけるカットオフ値について解説します。
千葉大学大学院医学研究院診断推論学 医学部附属病院総合診療科 講師 上原 孝紀
BNPとNT-proBNPの生理, 生化学的側面
BNPは心室充満圧が上昇した際に心室から生成、分泌されていることが明らかにされたホルモンです。proBNP(ホルモン前駆体)は、生理活性のあるBNPと生理活性のないNT-proBNPに分かれます。BNPはレニン-アンギオテンシン系、エンドセリン分泌、交感神経系を阻害して、ノルエピネフリン、エンドセリン、アンギオテンシンⅡ、つまり昇圧系に拮抗します。
その結果、利尿、降圧作用を介して心筋リモデリングを妨げ、心不全の悪化を防ぐとされています。半減期は、BNP20分、NT-proBNP25-70分であり(1)、加齢、女性、腎機能障害、心房細動で上昇し、肥満で低下します。BNPは腎以外でも代謝されますが、NT-proBNPはほぼ全てが腎排泄であり、腎機能障害時には、NT-proBNPはより強く影響を受けて高値となります。
BNPとNT-proBNPの採血・保存方法
BNPは血漿採血であり、採血後早期に血漿分離、凍結保存を行わないと測定値が急速に低下することが知られています。一方NT-proBNPは血清採血であり、室温でも検体が安定しているため、検査を外注する診療所や夜間休日の時間外診療、在宅診療等で実施しやすい検査です。
BNP, NT-proBNPの心不全診断・除外におけるカットオフ値
BNP、NT-proBNPは、救急外来における急性心不全の診断によく用いられます。その概要は日本心不全学会から報告されたステートメントに良くまとまっています (2) 。
BNP、NT-proBNPが最も威力を発揮するのは心不全の除外です。
BNPのカットオフ値を50pg/ml、100pg/mlとすると、それぞれ陰性的中率は96%、89%であり(3)、NT-proBNPのカットオフ値を300pg/mlとすると、陰性的中率は99%である(4)とされています。
NT-proBNPは、年齢によりカットオフ値を50歳未満:450pg/ml、50歳から75歳:900pg/ml、75歳以上:1800pg/mlとすることにより、表1のように急性心不全の診断と除外に有効とされています (5)。
また、BNP、NT-proBNPいずれも検査結果の個人差や生物学的変動を鑑みて、単回の評価だけでなく、前値との変化を検討、解釈することが重要と考えられています。
| 至適カットオフ値(pg/ml) | 感度 | 特異度 | 陽性的中率 | 陰性的中率 |
診断(rule in)するためのカットオフ値 | |||||
<50歳(n=184) | 450 | 97 | 93 | 76 | 99 |
50-75歳 (n=537) | 900 | 90 | 82 | 83 | 88 |
>75歳 (n=535) | 1800 | 85 | 73 | 92 | 55 |
rule in全患者 |
| 90 | 84 | 88 | 66 |
除外(rule out)するためのカットオフ値 | |||||
全患者(n=1256) | 300 | 99 | 60 | 77 | 98 |
<表1 息切れを有する急性心不全患者のNT-proBNP至適カットオフ値 (文献5から改編) (5)>
筆者は実臨床では使っておりませんが、BNPやNT-proBNPは心不全の診断のみならず、健診における無症候時の採血から、死亡、主要心血管イベント、虚血性脳卒中を予測するマーカーとして(6)、慢性心不全の治療効果指標(7)として、急性冠症候群の予後指標として(8)等、様々な有用性も報告されているようです。
(補記)BNP, NT-proBNPの算定と保険点数
BNPおよびNT-proBNPは平28保医 発0304・3において、心不全の診断又は病態把握のために実施した場合に月1回に限り算定でき、2項目ともに1週間以内に実施した場合は、主たるもの1つに限り算定するとされている、保険点数各140点の検査です。
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参考文献
- Clin Chem Lab Med. 2008;46(11):1507-14.
- 斎藤能彦, 吉村道博ら. 血中BNPやNT-proBNP値を用いた心不全診療の留意点について. 日本心不全学会. 2017年9月24日確認
- N Engl J Med 2002;347(3):161-7.
- Am J Cardiol 2005;95(8):948-54.
- Eur Heart J 2006;27(3):330-7.
- JAMA 2005;293(13):1609-16.
- Lancet 2000;355:1126-30.
- N Engl J Med 2005 352(7):666-75.
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