病棟や外来、在宅診療などでよく出会う水疱の処置。どのような対応が適切なのでしょうか.
この記事は、医師同士疑問解決プラットフォーム “Antaa” で実際に行われたやりとりの中から学んでおきたい内容を回答いただいた先生に執筆いただいております。

一般的な質問なんですが、水ぶくれができた場合
- 放置して自然に治るのを待つ
- 穴を開けて水だけ廃液する
- 水ぶくれの蓋を切り取る
を考えますが, どう対処するのがよいのでしょうか.破けるリスクと感染するリスクと用意できる道具の問題だと思いますが、アドバイスをお願いします。

僕は破らなくて済むなら、基本的には破らないようにしています。ずれ力で生じたような水疱は、フィルムで保護しています。
緊満性になってしまった水疱は痛みや痒みを訴える原因となるので、それは破っています。もちろん感染を生じている水疱も破ります。
後は水疱症で新生水疱の評価をしたいときは破ります。破る際には最低1日1回はしっかりと自己洗浄して、油性軟膏(ワセリンで充分です)でしっかりと保護してください。
しっかりと処置できるのであれば水疱蓋は取り除いたほうが感染コントロールの面で望ましいです。しかし、水疱底の上皮化が進んでいない状態では疼痛の訴えが強いことが多く、僕は無理に水疱蓋は取っていません。処置していく中で、疼痛の訴えがなくなってきたら浮いてきた水疱蓋を切り取っています。

私も水疱が緊満してる時は疼痛を訴えることが多いので、穿刺して内容液を排出してます。緊満もなく小さい水疱は無理には穿刺してません。穿刺したあとはワセリン基剤の軟膏を外用してガーゼ保護してました。(熱傷などでびらんもあったりして剥がす時ガーゼにくっつきそうならトレックスなどはさんだり)
水疱蓋は水疱膜自体が傷を保護して湿潤環境を保つという一方で、感染の原因にもなります。したがって[ke水疱蓋を除去するかどうかは傷の状態によって変わってしまうのではないかと思います(・_・;
ここでは局所熱傷による水疱の、治療で大切な湿潤環境と疼痛管理、水疱を穿刺するのかしないのか、外用薬を含めた熱傷の治療について解説します。
昭和大学医学部附属病院 皮膚科 村上 遥子(MURAKAMI HARUKO)
熱傷の深達度分類
熱傷の進達度分類について復習のためにお示しします。(図1)
深達度 | 特徴 | 処置 |
Ⅰ度熱傷 | 表皮のみの損傷, 皮膚の発赤のみ | 外用, ドレッシング材など |
浅達性Ⅱ度熱傷 | 真皮にいたる損傷, 水疱形成, 水疱底は赤色調, 上皮化するまで1-2週間 | 外用, ドレッシング材など |
深達性Ⅱ度熱傷 | 真皮にいたる損傷, 水疱形成, 水疱底は白色調, 上皮化するまで2週間以上 | 外科的デブリドマンなど |
Ⅲ度熱傷 | 皮膚全層の壊死, 白色皮革様〜褐色皮革様 | 外科的デブリドマン, 植皮など |
<図1:熱傷の分類>
熱傷による水疱の初期治療で大切なのは湿潤環境と疼痛管理
初期局所療法として、湿潤環境と疼痛軽減目的に油脂性基剤の外用薬(白色ワセリン、アズノール®軟膏、バラマイシン®軟膏)が用いられることが多いです。ちなみに私の場合は、緊満性水疱を穿刺した後は、バラマイシン®軟膏、トレックス®ガーゼ、滅菌ガーゼ、包帯という処置をしていることが多いです。
投稿にあった水疱の対応について
3.1 放置して自然治癒を待つ
これはあまりおすすめできません。
まず、熱傷してから受傷直後は30分程度、患部を冷却して、組織深部への進行を少しでも抑制します。冷やしすぎると凍傷になるので注意してください。
熱傷の創傷に関してもwound bed preparation(創面環境調整)を保つことが創傷治癒を早めるために必要となります。
Ⅰ度熱傷の場合は自然に瘢痕を残さずに治癒することもありますが、周囲も炎症が波及していることもあるため、受傷初期からステロイド軟膏などを塗布するようにしています。
ただし水疱ができている時点で熱傷の分類としてはⅡ度です。
3.2 穿刺し内容だけを排液する
水疱が緊満している場合、患者さんは疼痛を訴えることが多く、その場合は針などで穿刺して内容物を排出しています。
穿刺したあとはワセリン基材の軟膏を外用してガーゼ保護します。浸出液が多い場合は、ガーゼを交換する際に浸出液がとガーゼが固着してしまい、剥離するときに患者さんは非常に痛がります。
したがって、軟膏とガーゼの間に、シリコンガーゼを挟むようにするとよいです。
3.3 水疱蓋を切り取る
水疱蓋は水疱自体が傷を保護して湿潤環境を保つという一方で感染の原因にもなりかねません。
したがって感染の恐れがある場合は洗浄して水疱蓋を除去し、外用薬に治療に切り替えましょう。
熱傷の治療〜ガイドライン, 外用薬, 被覆材〜
水疱の有無とは関係ありませんが一般的な熱傷の治療について紹介します。熱傷の創部は継時的に状態が変化するので、処置時に使用する外用薬、創傷被覆材も使い分けが必要です。(図2、3)
基剤の分類 | 代表的な配合薬(主成分) | 対応する代表的な製品 |
油脂性基剤 | ジメチルイソプロピルアズレン | アズノール®︎軟膏 |
抗生物質(抗菌薬) | ゲンタシン®︎軟膏, フシジンレオ®︎軟膏 | |
酸化亜鉛 | 亜鉛華単軟膏 | |
白色ワセリン | 白色ワセリン | |
アルプロスタジルアルファデクス(プロスタグランジンE1) | プロスタンディン®︎軟膏 | |
乳剤性基剤 | トレチノイントコフェリル | オルセノン®︎軟膏 |
スルファジアジン銀 | ゲーベン®︎クリーム | |
塩化リゾチーム | リフラップ®︎ | |
幼牛血液抽出物 | ソルコセリル®︎軟膏 | |
水溶性基剤 | カデキソマー・ヨウ素 | カデックス®︎軟膏 |
ポピドン・ヨードシュガー | ユーパスタ・コーワ®︎ | |
ブロメライン | ブロメライン軟膏 | |
ブクラデシンナトリウム | アクトシン®︎軟膏 | |
液剤 | トラフェルミン | フィブラスト®︎スプレー |
<図2:熱傷に使用される主な外用薬>
機能区分 | 使用材料 | 代表的な商品名 |
真皮に至る創傷用 | キチン | ベスキチン®︎W |
ハイドロコロイド | アプソキュア®︎サジカル | |
テガダーム™️ハイドロコロイドライトドレッシング | ||
デュオアクティブ®︎ET | ||
ポリウレタンフォーム/ソフトシリコン | メピレックス®︎ライト | |
皮下組織に至る創傷用 | ハイドロコロイド | アプソキュア®︎ウンド |
コムフィール®︎アルカスドレッシング | ||
テガダーム™️ハイドロコロイドドレッシング | ||
デュオアクティブ®︎CGF | ||
ハイドロジェル | ジェリパーム®︎(ウェットシートⅠ・Ⅱ型) | |
キチン | ベスキチン®︎W-A | |
アルギン酸塩 | アルゴダーム®︎、カルトスタット®︎、クラビオ®︎FG、アルジサイト®︎銀、ソーブサン®︎ | |
ハイドロファイバー | アクアセル®︎、アクアセル®︎Ag | |
ハイドロポリマー | ティエール®︎ | |
ポリウレタンフォーム | ハイドロサイト®︎AD、ハイドロサイト®︎ | |
ポリウレタンフォーム/ソフトシリコン | メピレックス®︎Ag、メピレックス®︎ボーダー | |
ガーゼ代用品 | 抗生物質添加ガーゼ | ソフラチュール®︎ |
シリコンガーゼ | トレックス、アダプティク |
<図3:熱傷に用いられる主なドレッシング材>
創傷・熱傷ガイドラインよれば、壊死組織の残存する深達性Ⅱ度熱傷による壊死組織を伴う慢性期の潰瘍や小範囲のⅢ度熱傷の壊死組織を除去する際には、ブロメライン軟膏、カデキソマー・ヨウ素、デキストラノマー、スルファジアジン銀の外用が推奨されています。
また壊死組織が除去されたら、トラフェルミン、トレチノイントコフェリル、ブクラデシンナトリウム、プロスタグランジンE1の外用が薦められています。
なお、Ⅱ度熱傷に対するドレッシング材としては銀含有ハイドロファイバー®(真皮に至る熱傷に対して保険適応あり)が推奨されています。これは銀イオンによる抗菌作用があるため壊死組織を有する浸出液の多い創でも使用できます。
また、銀含有アルギン酸塩、銀含有ポリウレタンフォーム/ソフトシリコン、アルギン酸塩、ハイドロコロイド、ハイドロジェル、ポリウレタンフィルム、キチン、ポリウレタンフォームなども選択肢の1つとして提案されています。
熱傷以外で(特にご高齢者)急に水疱を認めた場合は、水疱性類天疱瘡などの水疱症の可能性がありますので、皮膚科に紹介してください。その際は水疱症の鑑別のために皮膚生検して蛍光抗体法を施行することがあるので穿刺する前に紹介した方がよい場合もあります。
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参考文献
現場の判断を助ける医師同士の質問解決プラットフォーム「AntaaQA」
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