肝硬変の体液貯留に対して使用されるバソプレシンV2受容体拮抗薬. 日本で使えるものにはどのようなものがあるのでしょうか.
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本邦では、大塚製薬の開発したトルバプタン(サムスカ®︎)が肝硬変における体液貯留に対して唯一使用できるバゾプレシンV2受容体拮抗薬です。2013年9月に使用可能となり、現在では肝硬変患者の難治性腹水・浮腫のkey drugとなっています。
バゾプレシンV2受容体拮抗薬にはサタバプタン、リキシバプタン、トルバプタンがありますが、本邦ではトルバプタンしか保険収載されていません。
ここではトルバプタンの肝性腹水に対する使い方について、ガイドライン、作用機序、導入のタイミング、副作用注意点、効果予測因子について解説します。
武蔵野赤十字病院 消化器科 久保田 洋平
肝性腹水に対する既存の薬物治療
非代償性肝硬変は2次性アルドステロン症を呈するため、抗アルドステロン薬(スピロノラクトン®︎25~100mg/日)が腹水治療の第一選択薬です。
スピロノラクトンのみで腹水コントロールが困難な場合や高カリウム血症をきたす場合などには、ループ利尿薬(フロセミド®︎20~80mg/日)を併用します。
これらの既存の利尿剤の問題点として、利尿剤抵抗性、腎機能低下、低ナトリウム血症、肝性脳症の誘発などが指摘されています。
肝性腹水に対する新規薬剤であるトルバプタンについて
バソプレシンV2受容体拮抗薬であるトルバプタンが肝硬変における体液貯留に対して効果を示し1)、2013年9月に保険収載されました。
肝硬変診療ガイドライン2015 2)では、「ループ利尿薬、抗アルドステロン薬との併用条件下で、低ナトリウム血症、腹水の改善に有効」と記載されています。
2.1 トルバプタン(サムスカ®︎)の作用機序
図1:利尿薬の作用部位 図表解説 薬理学 薬物治療学 第2版 菱沼 滋 著_ティ・エム・エス より引用)
トルバプタンは、バソプレシンV2受容体に拮抗し腎集合管で水再吸収を阻害することにより選択的に水を排泄し、電解質の排泄増加を伴わない利尿効果を示します3)。
ナトリウム利尿を起こさずに自由水のみを排出させるため低ナトリウム血症に対する改善効果も有しています。
また、腎機能への影響が少なく、ループ利尿薬と異なり低アルブミン血症でも効果が得られます。
2.2 トルバプタン(サムスカ®︎)導入のタイミング
図2 トルバプタンを用いた肝性腹水戦略の検討 文献8より引用8)
肝硬変患者の腹水に対して、フロセミド40mg以上の投与は腎機能を増悪させることが分かっています4),5) 。
一方で、肝硬変患者における腎障害の合併は生存率を低下させます6)。トルバプタン承認前の従来の腹水治療では、治療に反応しない場合フロセミドの投与量が多くなり、結果として腎機能を低下させ予後を悪化させてしまいます。
従って腎機能保護の観点から、既存の利尿薬を増やす前に早期にトルバプタンを導入することが推奨されています。
スピラノラクトン50mgおよびフロセミド20mgを投与しても肝性腹水・浮腫の改善がない場合にトルバプタン3.75mgより開始し、効果がない場合は7.5mg/日まで増加します2),7),8)。
2.3 トルバプタン(サムスカ®︎)の副作用、注意事項
主な副作用として、脱水、高ナトリウム血症、肝機能障害、肝性脳症、消化管出血などが挙げられます。
急激な水利尿により脱水症状や高ナトリウム血症を来たし意識障害に至った症例が報告されており、また急激な血清ナトリウム濃度の上昇による橋中心髄鞘崩壊症を来すおそれがあることから入院での導入が必要です。
2.4 トルバプタン(サムスカ®︎)の効果予測因子
当院の検討では、尿中Na/K比(≧2.5*)が有効予測因子として示されており9)、BUN値(<20mg/dl*)も有効予測因子として抽出されています。(*ROC解析でのcut off値)
腎機能が低下している患者では効果が得られにくい傾向もあり、初回投与では効果が得られかった急性腎障害の症例に対し、腎障害が緩解したタイミングでトルバプタンを投与することで効果を表したという報告10)もあります。
従って、既存の利尿剤を増量して血管内脱水(BUN上昇)や腎機能低下をまねく前にトルバプタンを早期に導入することが望ましいと考えられます。
まとめ
・既存の利尿薬に反応しない肝性腹水、すなわちスピラノラクトン50mg、フロセミド20mgを内服しても改善しない肝性腹水に対しては、トルバプタンの導入(3.75mg~)を検討する。
・トルバプタンは、腎機能への影響が少なく、低ナトリウム血症も改善させる。
・副作用として、脱水、高ナトリウム血症、肝機能障害、肝性脳症などを来す可能性があり、入院での導入が必要。
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参考文献/おすすめwebページ
- Tolvaptan for improvement of hepatic edema: A phase 3, multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Hepatol Res. 2014 Jan;44(1):73-82. PMID 23551935
- 「肝硬変診療ガイドライン2015 改訂第2版」日本消化器病学会編, 南江堂, 2015
- Tolvaptan,an orally active vasopressin V2 receptor antagonist-pharmacology and clinical trials.Cardiovasc Drug Rev. 2007 Spring;25(1):1-13. PMID 17445084
- Comparative pharmacodynamics of furosemide and muzolimine in cirrhosis. Z Kardiol. 1985;74 Suppl 2:129-34. PMID 3890391
- Comparison of paracentesis and diuretics in the treatment of cirrhotic with tense ascites. Gastroenterology. 1987 Aug;93(2):234-41. PMID 3297907
- Acute kidney injury in decompensated cirrhosis. Gut. 2013 Jan;62(1):131-7. PMID 22637695
- 「慢性肝炎・肝硬変の診療ガイド 2016」日本肝臓学会編, 文光堂, 2016
- 肝性浮腫に対するバソプレシンV2受容体拮抗剤トルバプタンの使用法の提案. 肝胆膵 2014, 69巻6号: 955-960.
- Prediction of diuretic response to tolvaptan by a simple, readily available spot urine Na/K ratio. PLoS One. 2017 Mar 31;12(3): e0174649. PMID 28362879
- A case with recovery of response to tolvaptan associated with remission of acute kidney injury and increase durine osmolality. Int Heart J. 2013;54(2): 115-8. PMID 23676373
- 図表解説 薬理学 薬物治療学 第2版 菱沼 滋 著_ティ・エム・エス(リンクは第4版)
おすすめ文献、webページ
- トルバプタンを用いた腹水に対する新たな治療戦略.肝臓 2017, 58巻2号: 72-77.
- 肝臓クリニカルアップデート2015 vol 1:53-54, 97-100.
- 大塚製薬:サムスカを安全にお使いいただくために(肝硬変編)
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