Antaaアカデミア第2期 佐々木淳「未来の在宅医療」

  • 2019年12月18日
  • 2020年3月5日
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これからの日本の医療を支える?!「在宅医療」とは

突然ですが、日本の医療費が一体どれくらいかご存知でしょうか?厚生労働省の「医療費の動向」によると、2018年度の医療費は、なんとおよそ42兆6000億円となり、毎年増加傾向を示しています。さて、この医療費の増加に密接に関わるのが「高齢者」の特に「入院費」。

今回のテーマの在宅医療とは、介護の必要な高齢者の方や、通院が難しい方に対して、患者さんのご自宅まで出向き、診療や健康管理を行う医療のことを言います。地域包括ケアシステムなどの地域に密着した医療が叫ばれる今日、この在宅医療が非常に注目を浴び、さらに前述の「入院費」の削減の一つの手段として行政面でもホットな分野となっています。

今回のAntaaアカデミアでは首都圏の在宅医療をされている佐々木淳先生から、在宅医療について一から詳しく教えていただきました!

ご登壇いただいた先生の紹介

佐々木淳 先生】
(医療法人社団悠翔会理事長)

高齢者医療の実態とは?日本で何が起きてるの?

一般的な高齢者医療の考え方

さて、早速ですが、前述の通り日本では医療費の増加が問題になっていて、その背景には高齢者の増加があるのでしたね。私も、テレビやネットのニュースでもよくそのような記事を目にします。高齢者の方は介護が必要な方が多かったり、加齢により何かしらの病気を持っている可能性が高いので、当然といえば当然と言えます。
しかし、実際に在宅医療で高齢者医療の第一線でお仕事をなされている佐々木先生は、そう単純なものではないと考えています。

“薬はリスク”

高齢者医療が複雑な問題になってしまう要因の1つに「」があります。高齢者の方というのは若い人と違い、多種類の疾病を抱えているケースが多いです。高血圧、糖尿病、高脂血症などの治療薬から始まり、NSAIDsやステロイド、飲み合わせが難しいワルファリンなどの抗凝固薬…多い人だと20近い薬を処方されてる方もいるそうです。

さらに厄介なことに、薬ごとに飲む時間、飲む量が異なっているのです。食直前、食後、寝る前…体力の落ちたお年寄りがたくさんの薬を用法を守り毎日飲む。さてこんなことが可能なのでしょうか?

佐々木先生 “もちろん、無理です!!!!!”

“単独世帯の増加”

さらに、日本の高齢者は単独世帯が増加していることが知られています。単独世帯が増えるとどうなるのでしょう?

まず、救急搬送の件数が増加します。みなさんもニュースで救急搬送の件数が増加している記事を見たことはありませんか?これは単純に、お年寄りが一人暮らしで体調を崩し、ましてや田舎に住んでいる場合、病院に行く手段がないから救急車を呼ぶしかないのです。また、このような事態になると、軽傷での搬送が増加するという問題点もあります。

また、高齢者には認知症の方が多いですよね。認知症の高齢者の方が一人暮らしをすると、人間関係でのトラブルはもちろん、転倒による骨折などのリスクも上昇します。

これらの理由から高齢者の単独世帯は多くの問題の可能性を孕んでいるといえます。

 

「健康寿命」の仕組み

皆さんは「健康寿命」という考えをご存知でしょうか?

日本人は世界的に見てもトップクラスの寿命の長さですね。高い医療の質や国民皆保険制度など、世界に誇るべき日本の医療がそれを支えているのです。しかし実は日本人は寿命が長いと同時に、健康寿命と平均寿命のギャップが大きいことが問題となっています。

日本人の平均寿命を80歳とすると、実はなんと最後の10年は介護が必要だったり、入院で寝たきりだったりと、自立した生活をできない期間になっています。皆さんも身内にこのような方がいらっしゃる方、多いと思います。しかし、なぜこのような事態になってしまうのでしょうか?

“入院が正義とは限らない”

入院というと、病気が治るまで病院でお世話してもらって、元気になったら退院という流れを想像しますよね。ところが高齢者の場合だとそうはいかないことが多いのです。

佐々木先生によると、高齢者の緊急入院は肺炎と骨折で半分を占めていて、入院した方の1部は亡くなり、退院したとしても平均の要介護度が増加するとのこと。また、一回の入院で100万円以上のお金がかかります。そして大切なことは、このお金はだれが払っているのかということです。これらのお金は高齢者の方が払っているわけではなく、国民の税金から支払われています。

佐々木先生:
「お金をかけるなと言っているんじゃないんです。お金をかけて元気に帰ってきてくれればそれでいいんです。しかし、お金をかけても要介護度が上昇しているのなら、入院が最適なソリューションでないことは明らかではないでしょうか?」

“疾病モデル”

要介護度の上昇は主に「リロケーションダメージ」と呼ばれる環境変化によるもの、「医原性サルコペニア」と呼ばれる、低栄養や長期臥床による廃用性症候群によるものの二つがあるそうです。これらは入院関連機能障害と呼ばれています。上の図のように何かがきっかけで健康を崩し、そこから病気を繰り返すことで健康状態が落ちていく、このような疾病モデルをたどる方は日本人の8割にも上ります。そしてこの負の連鎖の期間がまさに平均寿命と健康寿命のギャップそのものなのです。

佐々木先生:
「大事なのは私たちは生涯健康でいるって難しいんじゃないの?ってことです。私たちは年をとればだれでも要介護になっていくし、誰でも認知症になっていきます。」

 

じゃあ、どうしたら高齢者医療の問題を解決できるの?

さて、これまで長々と高齢者医療の問題点と現状についてお話してきました。本当に難しい問題が山積みですよね。
では、佐々木先生はどのような解決策を講じ、在宅医療はどのように関わってくるのか、お話ししたいと思います。

佐々木先生によると、在宅医療では二つ、高齢者問題へのアプローチがあるとのこと。
加齢とともに落ちていく身体機能を落とさないようにするのは、ちょっと無理。だからすっぱりあきらめて別の切り口で攻めます。

・自然な身体機能の低下を目指す

身体機能の維持は難しくても、なるべく急変せず、なるべく入院せず、穏やかに過ごせることができるように支えることは、在宅医療ならできそうですよね。

・社会的機能を落とさない

佐々木先生のおっしゃる「社会的機能」とは、人と人とのつながりのことで、家族、友人、地域の三つからなります。そしてこれらに支えられて私たちは自立することができ、人間らしく生きることができるとのことでした。しかし、私たちは仕事を辞めることで多くの関係を断ち切ることになり、年をとれば友人も亡くなったりして減っていきます。ここで社会的機能を落とさせないことで、人間らしく生きることができる期間を長くするのも、何とかできそうですよね。

佐々木先生:
「体が動かないということは社会的機能を失うというわけではないということです。」

具体的な解決策を教えてください!

とにかく予防しよう!

そもそも、大前提として、若者と高齢者では疾病構造が異なります。もっとわかりやすく言うと、同じ病気、同じ治療をしてもその背景が全く異なるので、結果が違うのです。

骨折を例にしてみてみましょう。

若者では外因性、単発性の骨折が多いですが、高齢者では、骨粗鬆症や筋量減少による転倒などの要因が重なり、内因性、多発性の骨折です。同じ治療をしても若者なら元通りかもしれませんが、高齢者だと、骨癒合不全やさらなる筋量減少を引き起こしてしまうのです。

じゃあどうすればよいのでしょうか?

佐々木先生:
「治療は難しくても、リスクを減らすことはできますよね。つまり、予防です。」

1次予防

1次予防とは、事が起きる前にそもそも起こらないようにすることですね。例としては感染症に対する予防接種などがあげられます。

高齢者問題を予防するにはどうしたらいいでしょう?
今回佐々木先生がお話していた予防法を伝授します!

1、薬がリスクなら??減薬!

薬が多すぎるなら、減らせばいい!単純なことですね。

佐々木先生:
「そもそもなぜこんなに薬が多くなるかというと、『臓器別主治医』にしかかからないからです。」

病気にかかったらその専門の先生に診てもらうのは当たり前ですが、同時に専門医に診てもらうのはせいぜい2,3種の病気が限界!それ以上かかった場合は、臓器別主治医ではなくかかりつけ医にかかり、いらない薬をどんどん減らしてもらうのがベストとのことです。

2、打倒!フレイルサイクル!栄養ケアと口腔ケア

これが今回の講演の1番重要なポイントでした。

在宅高齢者は疾病の際の背景が違うと前述しましたが、具体的には3つほど要因があります。それは、低栄養・筋量減少・筋脆弱性の3つです。これらの要因を追うと、肺炎も骨折も、これらの背景要因は共通していることがわかったそうです。

フレイルサイクルという言葉をご存じあるでしょうか?上のスライドで示した高齢者によくある負のサイクルを「フレイルサイクル」と言います。高齢者は一見元気に見えることもありますが、水面下では様々なことが起きています。その最も代表的なものに「食事量の低下」があります。

では食事量の低下が起こるとどうなるでしょうか。スライドに示したようにどんどんと負のスパイラルに入り、体は衰えていく一方です。骨格筋減少は転倒を引き起こすのは容易に想像できると思いますが、実は嚥下機能をつかさどる筋肉も骨格筋です。つまり、骨格筋の減少は誤嚥性肺炎にもつながるということですね。ほかにも様々な疾患が、食事量の低下により起こります。

じゃあどうしたらいいのでしょうか?

佐々木先生:
「高齢者の方は若者よりも食べなくてはなりません。」

会場で驚きの声が上がったシーンは実はここでした。国の調査によると、高齢者の場合、死亡リスクが一番低いのはなんとBMIが27の人たちだそうです。25が肥満のラインで、若い人だと22あたりを目指してダイエットに励む方が多いと思います。しかし、高齢者の標準体重は成人とは違います。アメリカの調査ではBMI22の高齢者はBMI40の肥満者と同じくらいのリスクがあるとのことです!また、入院したときに栄養状態が悪い高齢者は脂肪のリスクが何倍にもなることも知られています。

しかし、日本では逆のトレンドがあります。皆さんも感じたことがあるのではないでしょうか?なんと日本の在宅高齢者の平均BMIは18.1です。また、食べれない人以外にも、食事制限をしているケースもありますね。塩分制限や蛋白制限などなど…

とくに蛋白制限は効果はあるのでしょうか?実はアメリカをはじめとした海外では高齢者に蛋白制限はサルコペニアやフレイルを引き起こす危険因子としてみなされることが多いです。日本でも最近、サルコペニア・フレイルを合併した慢性腎不全患者に対する蛋白制限についてのペーパーがでました。それによると、重症の腎不全、蛋白尿をきたしていないなら、むやみな蛋白制限はサルコペニアやフレイルを引き起こすので、ゆるやかな蛋白制限にした方が良いとのことです。

佐々木先生:
「要は、過剰よりも不足が問題なんです。」

しかし、なぜここまで筋量が減るのでしょうか?ここでも驚きの声が上がりました。
筋肉の合成が上が起こるには「蛋白摂取」と「運動」が不可欠です。若い人だと筋合成には1日8gの蛋白をとるだけでいいのですが、これが高齢者になると25gも必要です。

健康な人生をより長く」という目的で、食べすぎや太りすぎを防ぐ医療から、「残る人生をより楽しく」という目的でしっかり食べてしっかり太るという方向にどこかのタイミングで切り替えることが大事だということですね。

実際に、台湾や中国などの海外の高齢者医療では、肉!肉!というような蛋白質メインの食事メニューになっています。台湾ではバイキングになっているところまであるらしいですよ!

2次予防

どんなにリスクを減らしても病気というのはいつ起こるかわかりませんから、早期発見が大事なのは変わりません。

佐々木先生の悠翔会では2018年度は多くの急変の患者さんが臨時往診などの緊急対応で解決し、これにより入院患者の数を減らすことに成功しています。さらに、予測できる急変に備えを万全にすることで、急変そのものの件数を減らすことにも成功しています。

また、急変への対応力そのものを上げることにも取り組んでいるそうです。悠翔会ではコールから平均38分で診療が開始されるとのことですが、これは救急車と同じ、むしろ救急車より早いくらいです。

これらの努力により何よりも入院を減らすことに成功しています。悠翔会では具体的には看取り講習会を実践して在宅死を増やすための地域づくりにも貢献していて、年々看取り死が増えているとのことです!素晴らしいですね。

3次予防

3次予防では早期退院を目指します。早期退院にはどのようなことをすればよいでしょうか?

佐々木先生によると、これは病院との連携を深めるしかないとのこと。
在宅医療導入により、入院する患者さんを減らすことだけでなく、入院日数が減ることも入院を減らすことにつながりますね。

佐々木先生:「私たちは保険料をもらってやっている以上は、クライアントは患者ではないです。医療費はだれが払っているのでしょうか?公のお金を預かっている以上は生産性を上げる必要があると思います」

日本の高齢者福祉のこれから

高齢者福祉の3原則というのがあります。デンマークで提唱された概念ですが、今や世界の高齢者福祉の基本となっています。
その内容は、人生の継続性・自己決定の尊重・残存機能の活用の3つで、この順番が大切です。日本の高齢者福祉が遅れているといわれている所以はここにもあります。日本ではこれを逆からやってしまうことが多いのです。残存機能(できることではなく、できないこと)をさがし、それに基づくケアプランに従い、自己決定が損なわれてしまうのです。

社会機能について考え直そう。

人間の社会機能は家族・友人・地域だと紹介しましたね。これらがあることで私たちは自立できます。現在の日本の医療はこの上の図のように自立のつっかえ棒のような役割を果たしています。

しかし、佐々木先生によると、つっかえ棒があっても根がダメになるなら木は枯れてしまうんだ、とのこと。

実際に、生きがいや友人の存在というのは大きく予後に関わることが知られています。不思議ですね!どこで治療を受けたかということも大事だとは思いますが、それ以上に社会関係が予後や要介護度に関わっているのです。

こういう事実がある以上、やはり目を背けるわけにはいきませんね。さらに人口構成もお年寄りが増えていくという現実もあります。新しい家族関係、新しい友人、深い地域密着性を目指し、根の部分を太くしてあげるのが今後求められていくでしょう。

悠翔会は何をしているの?

悠翔会は“Platform”を目指す

大都市部の超高齢化が起きているのは実は日本が初めてです。ほかの国々では高齢者は進んでも、実は田舎で起きる高齢化です。そのため、国外の例はあてにならないのではないか、佐々木先生はそうおっしゃっていました。悠翔会では首都圏を安心して暮らせる地域にすることを目指しているそうです。そのために、診療所の展開も、二つの基準に従っています。一つは診療圏の細分化によって、迅速性と地域密着性を上げること。もう一つは、新規の診療圏の開拓で、より多くの患者さんに在宅医療を届けること。ぜひ今後も在宅医療が広まっていくといいですね!

患者のためと言って思考停止しない

佐々木先生によると、患者さんたちの真のニーズはより良い医療ではなく、そもそも病気にならないことだそう。たしかに、病気を治してくれるのもありがたいですが、病気にならなければそれより良いことはありませんよね。結果的にそれが患者さんを医療に依存させないで、単価を下げることにつながり、クライアントである費用負担者の国民の方々のためにもなるという佐々木先生の持論は説得力がありますね。

かかりつけ医と連携

患者さん側としては何より、看取り死を望んでいる方が多いです。それも、かかりつけ医に最期を見てほしいという方は多いですね。しかし、かかりつけ医のお医者さんも人間ですから、24時間365日一人で働くのは物理的に不可能です。そのためにかかりつけ医の先生のサポートをすることで、かかりつけ医の先生が在宅医療に関われるようにするのも悠翔会の目的の一つだそうです!

まとめ

在宅医療は患者さん側も、そして国にもメリットがある、これからの日本の医療のキーワードの一つとなっていきそうですね。かかりつけ医との連携など、まだまだ難しいところはあると思いますが、更なる在宅医療の発展は多くの人のためになることでしょう!

佐々木先生、長時間の講演をありがとうございました!(文:小野寺啓)

 

 

 

 

 

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