アルコール多飲者が入院した時考えるアルコール離脱せん妄. いざ起きてしまった時, どのように対応するのでしょうか.
この記事は、医師同士疑問解決プラットフォーム “Antaa” で実際に行われたやりとりの中から学んでおきたい内容を回答いただいた先生に執筆いただいております。

アルコール離脱せん妄の予防について、いざ発症してしまった患者に良い処方などありますか?
すでにワイパックス®️3mg/day,リスパダール®️2mg追加、セレネース®️2.5mg追加されているような人にベンゾジアゼピンの内服などの追加はどうなのでしょうか。

離脱の症状は「minor」「seizure」「hallucionosis」「Delirum tremens」に分かれ,それぞれで微妙に臨床像や対応が異なります。
今回はminorなのではないか推測してお答えします。
うちの病棟管理マニュアルでは離脱のハイリスクがある or 徴候がすこしでも認められる人は電解質をフルに確認するのと、セルシン®️予防内服と各種ビタミンと葉酸補充をおこないます。セルシン®️予防内服は15mg/dayを3d,6mg/dayを4dのRegimenでやっています。UpToDateにかいてあるようなクロルジアゼポキシド(バランス®)は採用にないですし,海外文献の量はかなりの量なのである程度調整してます。
いざ症状が急にでてしまった人はCIWA-Arによる評価を行います。8点以上だったり増悪傾向であれば5-10mgのジアゼパム投与を行います。CIWA-Arによる評価は重篤な患者は10-15min毎、安定している患者は4-6h毎といわれています。
CIWA-Arとかいわれても困る!!という人もいると思いますので…かなりざっとしたやりかたですがminor程度であれば
- 「落ち着くまではセルシンiv5-10mgを15分毎に行う」
- 「落ち着いたら15mg/dayを3d,6mg/dayを4dのRegimenで症状コントロールする」
でいいと思います。痙攣やら幻覚やらで症状がひどい場合はBZOによる積極的な加療が必要になります。

アルコール離脱予防では、明らかに飲酒量が多い人は入院時からベンゾジアゼピンを併用します。ワイパックス®︎を使う事が多い理由は肝代謝が少ない、半減期の長さからです。
3mgからスタートすることが多いですが、飲酒量に応じて必要となる用量は異なります。欧米ではそれ以上使う事もあるようですが、体格も異なるのでなんとも言えません。アルコール離脱せん妄、大離脱が明らかな場合は積極的に増量すべきです。
ベンゾジアゼピンの使用はせん妄のリスク等の観点から早期に減薬すべきと言われますが、そのラインもまた難しいです. 私は大離脱が終わる目安の最終飲酒から7日あたりから漸減します。2週間以内の投与に留めるのが理想的でしょう。
抗精神病薬の使用はあまりエビデンスはありませんが、ベンゾジアゼピンによるせん妄が起きていた時に有用です。ただ、判断は非常に難しいので、投与してみて、という話になるかと思います。
ここではアルコール離脱せん妄に関して、早期離脱症候群、後期離脱症候群の分類、どのくらいの飲酒量で起こるのか、栄養障害を含めた治療について解説します。
社会医療法人社団さつき会 袖ケ浦さつき台病院 精神科・心療内科 大迫鑑顕
アルコール離脱せん妄には早期離脱症候群と後期離脱症候群がある
アルコール離脱せん妄とは、アルコールを多量かつ長期に摂取していた人が、それを中断または減量した際に生じる離脱症状の一つです。その出現の時間的経過から早期離脱症状群(小離脱)と後期離脱症候群(大離脱)とに分けられます。
[図1 小離脱症状と大離脱症状の時間的経過と臨床症状(文献1より引用)]
1 早期離脱症候群(小離脱)
早期離脱症候群は飲酒中断後6時間を経過したころから出現し始め、24時間後頃にピークを持つもので、
- 自律神経過活動(発汗、高血圧、頻脈、粗大な振戦)
- 不快感情(イライラ、不安、焦燥)
- 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢)
- 一過性の幻覚(幻視、幻聴)
- けいれん発作(強直間代)
などを認めます。軽い見当識障害を認めることもあります。通常、3~7日で治まります。
2 後期離脱症候群(大離脱)
後期離脱症候群は、アルコール離脱せん妄と同義とされ、 最終飲酒から48時間後から起き始め72~96時間後にピークを持ちます。大抵1週間以内に症状は消退しますが、まれに4~5週間遷延してしまうこともあり注意が必要です。
前駆症状として不眠、振戦、恐怖などを認め、けいれん発作が先行することもあります。見当識障害、幻覚(小動物幻視(虫などもある)、体感幻覚(虫が体を這う感じ))、妄想、自律神経過活動も通常存在し、意識レベルは日内変動し動揺性に経過します。時に職業せん妄(自身の職業に関連した動作)も認めます。
3 どのくらいの飲酒量で起こるのか
アルコール離脱症候群を疑う場合は以下の情報を確認しましょう。飲酒量でみると日本酒3合(ビール1.5L / 焼酎300mL / ワイン6杯に相当)以上を5年間毎日摂取している場合、より発症の可能性は高まります。6)AUDIT(アルコール使用障害スクリーニングテスト)も参考にしてみましょう。11)
- 最終飲酒時間
- 飲酒パターン(機会飲酒、晩酌、連続飲酒など)
- 飲酒量
- アルコール離脱症状の既往歴
治療
アルコール離脱せん妄は遭遇する機会が多いにもかかわらず、本邦に十分なコンセンサスを得られた治療方針がないのが現状です。海外では、米国嗜癖医学会(ASAM)や英国国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインが有名ですが、専門病棟でないと容易には行えないのが現状です。一般的な治療法と、自施設での処方例を紹介します。
1 栄養障害に対する治療
アルコール多飲酒者は低栄養、脱水、肝障害等を伴う場合が多く、採血、頭部画像などで評価し、異常があった場合は補正する必要があります。特に、ウェルニッケ・コルサコフ症候群の予防目的にビタミンB系を積極的に予防投与します。7)
チアミン塩化物塩酸塩(旧アクタミン®)10mg/ml
5~10アンプルをメインの補液に混注(※保険上は5アンプルが上限)
2 ベンゾジアゼピン系薬物
アルコール多飲酒者では、脳内の抑制系神経GABAニューロンが常にアルコールにさらされています。急な断酒でGABAニューロンの働きが停止すると、その支配を受けている下流の興奮系ニューロンが著しく活性化し、離脱せん妄の症状が生じます。それを、GABAニューロンに作用するベンゾジアゼピンで治療することが大きな治療方針となります。一方で、ベンゾジアゼピンそれ自身もせん妄の直接因子となり得るため、内服は可能な限り短期間(1~2週間以内に漸減中止)にとどめることが望ましいです。
ジアゼパム(セルシン®、ホリゾン®) 10mg/2ml
0.5~1アンプルを2分以上かけて静注 (2回目以降は3~4時間間隔)
- 高齢者、肝障害がある場合
ロラゼパム(ワイパックス®) 錠 1回1mg 1日3回 毎食後
- その他
ジアゼパム(セルシン®、ホリゾン®) 1回5mg 1日3回 毎食後
3 抗精神病薬
興奮や幻覚が強く、大暴れしている場合は抗精神病薬の併用を検討せざるを得ません。薬剤の選択としては、一般的なせん妄の加療と同様に行われます。8)
ハロペリドール(リントン®、セレネース®) 5mg/ml
0.5アンプルを生食100mlに溶解し200ml/hで投与 1日2回 15時、夕
クエチアピン(セロクエル®)錠 1回25mg 1日1回 夕
ペロスピロン(ルーラン®)錠 1回4mg 1日1回 夕
リスペリドン(リスパダール®)内用液 1回0.5mg 1日1回 夕
(症状に応じて適宜増量)
まとめ
簡潔にアルコール離脱せん妄の対応に関してまとめました。次に起こることを予測して、早め早めの対応を行うことが治療の可否を大きく分けます。一方で、専門家であっても離脱症状とせん妄の症状を見分けることが難しいこともありますし、抗精神病薬の用量に関しては経験が必要な部分もありますので、可能な限り専門家へ相談してください。
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参考文献等
- 精神科治療学. 2013 28(9): 1163-1172 アルコール離脱せん妄の現在の考え方と治療
- アルコール・薬物関連障害の診断・治療ガイドライン 87-92 じほう 2002
- J Clin Diagn Res. 2015 Sep;9(9):VE01-VE07. PMID:26500991 Alcohol Withdrawal Syndrome Benzodiazepines and Beyond
- 精神科救急のすべて p.214-224 新興医学出版社 2011
- せん妄のスタンダードケアQ&A100 p.122,141 南江堂 2014
- Innov Clin Neurosci. 2013 Apr;10(4):26-32. Thiamine deficiency and delirium
- 臨床精神薬理. 2017 20: 175-179 せん妄の型に応じた薬物療法の違い
- 臨床精神薬理. 2017 20: 181-190 アルコール離脱せん妄の治療
- せん妄の臨床指針 星和書店 2015
- Brief Intervention for harmful and hazardous drinking. WHO 2001
- American Psychiatric Association: Diagnostic and statistical manual of mental disorders. 5thed. DSM-5. Washington, DC: American Psychiatric Publishing, 2013. DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き 医学書院 2014
推薦図書/参考webサイト
せん妄の治療に関して
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