君は、生き延びることができるか?

AI/IoT時代の医療プロフェッショナル像~君は、生き延びることができるか?~

 オリンピックを来年に控えた2019年。以前にも増してAI,IoTということばが世間を飛び交うようになって来ています。Alpha Goがプロ囲碁棋士を破ったことは記憶に新しく、これまで人間がおこなっていた作業を、AI(人工知能)の力を借りてより簡単に、そしてより正確に行うことが可能になってきました。医療界でも画像診断の分野にAIが積極的に取り入れられるなど、その存在感がますます大きくなってきています。今後医師の仕事はどう変わっていくのか心配に感じている先生もいらっしゃるかもしれません。そこで今回は、「AI/IoTのプロフェッショナリズム像~君は、生き延びることができるか?~」と題し、これからの時代に求められる医師の在り方を3名の演者の方々を交えて熱い議論が繰り広げられました。

ご登壇の先生ご紹介

【藤沼康樹さん】
医療福祉生協連家庭医療開発センターセンター長

【尾藤誠司さん】
東京医療センター臨床研究センター臨床疫学研究室長

【外山尚吾さん】
京都大学医学部 

AI/IoT時代に臨んで思うこととは?!

 AI/IoT時代に際し、多方面でご活躍されている三人の先生方がこの時代に対してどのような思いを抱いていらっしゃるのかお聞きしました。お三方共に多様なバックグラウンドをお持ちの先生であり、それぞれのご知見に基づいた様々なお話が飛び交いました。

藤沼康樹さん「現代は戦国時代!?」

 

 戦争もなく、安心して暮らせる日本。まして聖域とも捉えれられる医療の世界は、多忙ではあるものの平和そのものだと感じられている先生方も少なくないのではないでしょうか。しかし藤沼さんは、医師の世界にいるだけではつかむことのできない情勢があるといいます。

藤沼さん:「先日あるイベントで、若干18歳にして現役ITスタートアップ社長の青年が”現代は戦国時代だ”と言っていて衝撃を受けました。我々医師からすると、世界は安定して見えるかもしれません。しかし、目線を変えてみれば、世界は”パイ”をめぐって熾烈な戦いが繰り広げられる、まさに“戦国時代”なのかもしれません。(目線の)レイヤーを変えてみると、時代は激動しています。医者のレイヤーでしか物事をとらえられないのは危険なのではないでしょうか。」

 今から450年程前、室町幕府が衰退し、各地で戦国大名が名乗りを上げ、日本は戦国時代に突入していきます。あまたの戦いが繰り広げられる時代が再び展開されているのかもしれません。1990年代に電子カルテが登場してから20年あまり。医療の分野にも多くのベンチャーIT企業が参入しています。目の前の患者さんを助けるために他業界の時代の流れを掴むことがますます大切になってきているということでしょうか。

外山尚吾さん「新時代に対する不安」

 AI/IoTについての話題が日常生活にも浸透し始め、新しい技術がどんな革新をもたらしてくれるのか期待が高まります。その一方で、現役京大医学部生の外山さんはある義務感を覚えることがあるといいます。

外山さん:「AI/IoT時代と聞くと『大学での現行の勉強に加えて、”やらなきゃいけないこと”がまた増えるのか』という不安を抱いてしまいます。」

 医学の道を歩むためには、日々知識を更新し勉強していくことが求められます。新薬が登場してきたり、ガイドラインが更新されたり。医学生なら、CBTや国師に向けて知識を蓄えていくことが求められます。そのうえで教科書にAI/IoTというページが増えた、という捉え方をする方も少なくないのかもしれません。

尾藤誠司さん「求められる能力の変化」

 患者の健康を守るために医師は多くの能力を必要とされます。問診をして主訴を見抜き、鑑別診断を挙げて、必要な検査をオーダーし、原因を突き止めて治療する。その過程で必要となる多くの知識を持ち、最適な治療を行える医師が求められてきたのではないでしょうか。尾藤さんはこの価値観が変わっていく可能性があるといいます。

尾藤さん:「”知っていること”の価値が下がるのではないかと思っています。鑑別診断や診断アルゴリズムといった、日々の診療で必要とされる知識がスマホで確認できるようになってきているからです。」

 スマホの普及、電子書籍の充実化によって、入院中の患者さんに対する処方薬の副作用をカンファレンス中にスマホで調べて確かめる、なんてことも可能になっています。知らないことや、確信の持てないことをその場で調べることが容易になってきていることは確かですね。

専門科がやらなくてよくなることは?意識すべき”中動態”とは?!

  AIの台頭によってなくなる仕事とはなにか、といった議論が盛んにおこなわれています。機械学習やディープラーニングを通じてAIがより複雑な問題を対処できるようになると知り、将来に向けて備える必要があると感じている方も少なくないと思います。それでは医師が医療の専門家として行う必要がなくなることとはいったい何なのでしょうか?

One Goalを目指すことは必要なくなってくる?!

 医師と患者が同じ目標に向かって医療を行っていくことが大切である、と説かれることがあります。丁寧な問診を行い、患者の健康状態を分析することで、最適な治療を行っていくこと。そのために診療ガイドラインには多くのアルゴリズムが存在し、実際に効果があることも確かです。しかし、AI/IoT時代を医師が生き抜いていくためには、目指すべきは他にあるのではないかと先生方は考えています。

 

尾藤さん:「最適解を最短で得ることができる能力は今後重要でなくなるのではないでしょうか。」

 

藤沼さん:「One Goalが設定されているものにおいては、解析力が大切になってくるため、その点ではAIには勝てないでしょう。」

 

 例えばAED。心室細動・心室頻拍の自動解析が可能になったことで、目の前で人が倒れたとき、医学を学んだ医師でなくともAEDを使って救命行動をとることができるようになりました。こういった、状況分析や判断をAI/IoTを用いてより正確かつ迅速に行うことが可能になり、医療の未来は広がっていくのではないか、ということですね。

因果関係を追い求めることには限界がある

 医療だけではなく、多くの場面で原因を追究することが求められます。飛行機事故が起きれば航空会社は原因究明を迫られますし、仕事でミスをすれば原因を考えて再発防止策を立てることが求められます。

 

外山さん:「中学や高校時代から論理ゲームをすることが体に染みついています。努力をすれば報われる、ダメな人は努力をしていない人だなどと考えていました。」

 

 外山さんのお話されるように、受験勉強や医師国家試験に向けての勉強などは、論理思考を試される最たるものなのではないでしょうか。テストでは、病名とその原因、そして治療をできるだけ多く記憶し、問題文で与えられた条件と最も合致する知識を引き出して答える能力が求められます。そしてこの構図は、医師になったあとも続いていくと尾藤先生・藤沼先生は言います。

 

藤沼さん:「偶然を排除しないと医師の仕事は成り立たないものですが、なんで私は病気になってしまったの、という簡単には答えられない問いを患者さんからぶつけられて困ることがあります。」

 

尾藤さん:「患者さんの”なんで”は、”why”ではなく”how come”に近いんですよね。医師が遺伝子やリスク因子といった原因を求める一方で、患者さんはなんで私の人生にこんな不幸が訪れたのだろうかと考える、という違いがあります。」

 

藤沼さん:「誰しも不幸が訪れたときは、誰かもしくは何かのせいにしたくなりますね。つまり、意味づけをしたくなるものなのです。」

 

 原因がわからないとき、医学では本態性や特発性という言葉を用いることがあります。現代の医学の限界を感じる場面の1つです。しかしながら、原因遺伝子が特定されているがんであっても、そのガンがある遺伝子の変異によって起こってしまったと説明できても、なぜそれが自分の目の前にいる特定の患者さんに発症してしまったのかはいくら考えても答えが出るものではありません。因果関係を求めることの限界がここにあるのだと先生方はおっしゃいます。そして科学者としての医師の性格が原因究明へと掻き立てるのだと外山さんは考えています。

 

外山さん:「一対一対応が解明されたときにオキシトシンが出る、というのも医師が原因を求める理由の一つだと思います。例えば、ガン現遺伝子が発見されたときなどは感動すら覚えますよね。」

 

 難解な問題を解くことができた時の感覚は、数々の試験を突破してきた先生方なら誰しも味わったことがあるのではないでしょうか。いままで未知だったものが解明できたときの喜びを求めることが、医学の進歩を推し進めてきたのかもしれません。

医者患者の関係はどうあるべきか?!

 画像診断にAI/IoTを応用することで、より正確なエビデンスに基づいた医療が提供される日が近づいています。そこで、AI/IoTと医師のかかわり方だけではなく、これからの時代の医師と患者の関係性について先生方にお話を伺いました。

 

尾藤さん:「エビデンスやサイエンスはあらがいようのないものです。だからエビデンスとパターナリズムは親和性が高いのです。」

 

 現在までに行われてきた数々の実験が積み重なって世の中の事象は解明されていきます。医学の世界も例外ではなく、医師が患者さんに提案する治療は経験則ではなくエビデンスに基づいていることが求められます。また現代では、エビデンスに基づいていても、インフォームドコンセントのないパターナリズムは良くない医療の在り方だとする風潮があります。しかしパターナリズムは本当に避けられるべきものなのでしょうか。外山さん、藤沼先生はある程度必要なものなのでは、と考えています。

 

外山さん:「“人が人として自分の意思に基づいて行動できる”という前提に立ちすぎている気がします。今年の夏に気胸になったとき、家族と話している中で手術することが“なんとなく決まっていき”ました。」

 

 何となく流れで物事が決まっていくというのは、空気を読む日本人にはありがちなことであるといわれます。藤沼さんはこの”流れ”に身を任せたことで損をしてしまったご経験をお話くださいました。

 

藤沼さん:「ある程度のパターナリズムがないと結局クライアントが損してしまうことがあります。学生時代に美容院で松田優作みたいにと注文した時、仕上がりがパパイヤ鈴木になっていて落ち込みました。美容師さんがパターナリスティックにアドバイスをしてくれればそんなことにならずに済んだと思います。」

 

 もし尾藤さんの美容師さんが「多くの人の髪を切ってきた私は、あなたにはパーマは似合わないと思う。」というアドバイスをしてくれていたら、残念な思いをすることもなかったのかもしれません。このお話の肝は”中動態”にあると尾藤さんは言います。

 

尾藤さん「自己決定というのは幻想だと思います。ある主体が強い意志を持って物事を決めるというのは無理があるんです。ローマ時代以前には“中動態”という能動でも受動でもない”態”があったそうです。」

 

 2017年に國分功一郎先生の著書「中動態の世界」が出版され、医療の世界でも“中動態”という概念が話題になりました。尾藤先生はこの中動態を次のように説明されます。

 

尾藤さん:「目の前のコップが机から落ちるのをみて、渡米の予定をキャンセルする、ということがあってもおかしくありません。物事が決まっていくというのはそういうものなのです。

 

 自分の意志に基づいて行動しているつもりでも、実はその背景で様々なものに影響されているということでしょうか。この考えを医療の世界に持ち込んでみると、患者さんが自分の意志に基づいて治療を決定しているつもりでも、その背景には医師からの勧めなどに影響されている、いうことになります。患者さんご自身の意志決定にすべてをゆだねてしまうのではなく、中動態を意識して信頼関係を築くことが大切だと尾藤さんは言います。

 

尾藤さん:「適度に信頼してもらうことが専門科の役割だと思います。信頼とは酔うことに似ています。ちょうどお酒を飲んで酔っぱらいながらも自分の足で歩いているように、適度に酔っぱらってもらうのがいいのではないでしょうか。」

そしてこれからの医療者は患者さんの“やりくり”を助けていくべきだと尾藤先生は言います。

尾藤さん:「自分のからだと向き合ってみてうまくいかないけれど、なんとかもがきながら生きていく。そんな患者さんのやりくりを助けていくことがこれからのヘルスケアプロバイダーのやるべきことになっていくと信じています。」

 

 家計がきつくなる月末はきついものですが、あるものでなんとかやりくりしていくことで乗り切ることが必要です。同じように、なんとか健康であろうと踏ん張っている病気や悩みを抱えた患者さんの助けになっていくことが、これからの医師には求められるということでしょうか。そしてこのやりくりという考え方は世界的に共通認識になりつつあると藤沼さんは言います。

 

藤沼さん:「creative self という考え方が広がりつつあります。患者さん自身が自分でやりくりしながら病気と向き合っていくというのはものすごくクリエイティブなことなのです。」

 

 例えば飲み薬。そのまま飲むと苦いので何かと一緒に飲みたい。グレープフルーツジュースで飲んでみよう。そんな患者さんの試行錯誤はクリエイティブそのものなのではないでしょうか。そしてもしグレープフルーツジュースで飲むことがほかの服薬に悪影響ならばそれを患者さんに教えてあげる。そんな援助をしていくことがこれからの時代に医師や医療者に求められることだということですね。

参加者からの質疑応答

 トークセッションのあと、会場にお越しいただきライブ視聴していただいた先生方から、ご登壇頂いた先生方へのQ&Aセッションを行いました。いくつか頂いた質問の中から今回は1つ紹介させて頂きます。

 

Q「私は医療界という敷かれたレールの上でタスクをこなすように歩んできました。先生方のようにもっと視野を広くもちこれからの時代を生き抜く上で大切なことは何でしょうか?」

 

A.藤沼さん:「楽しいことに習熟することですね。習熟するのが難しいことほどいいのではないでしょうか。例えばiPadやAppleペンシルは使い慣れないからこそ愛せるようになりますね。これ楽しいな!という身体感覚を大事にするべきだと思います。」

 

 まだ使ったことのないものを使ってみたり、できないことをできるように努力してみたりするのは楽しいことですよね。温故知新。使い慣れたものを使い続けつつも、新しくていいものを取り入れていくことが大事ということでしょうか。

 

A.尾藤さん:「自己変容を恐れないことではないでしょうか。昭和や平成は安心・安全を求める時代でした。でも変わることを恐れ、リスクをゼロにすることは面白くないですよね。転倒のリスクがあるから身体抑制しなければいけないという考え方もありますが、自分で歩きたいという患者さんの気持ちがあるなら、その意思を大事にすることも大切なのではないでしょうか。」

 

 医療の世界ではミスは禁忌であり、なるべくリスクを低くすることが求められます。しかしノーリスク・ノーリターンという言葉の通り、一歩踏み出すからこそ見えてくる景色もあるのではないでしょうか。

今回も多くの知見が得られました

 AI/IoT時代のプロフェッショナル像と題して3人の先生方に討論頂いた今回のオンライン配信。まだ見ぬ新しい技術が日々の暮らしだけでなく医療の在り方も変えていくことが予想されるなか、どんな考え方でどんなプロフェッショナル像を描いていけばいいのか、熱いお話を聞かせて頂くことができました。今回ご登壇頂いた先生方の考えをもっと知りたいという方のために先生方が日々情報発信されているメディアを下記にご紹介させて頂きますのでぜひご覧ください!!]

〇関連リンク

〇藤沼康樹さん運営 ブログ「藤沼康樹事務所(仮)for Health Care Professional Development」Podcast「Reflective Podcast by YasukiF」

〇尾藤誠司さん運営「うまくいかないからだとこころ

〇外山尚吾さん運営 note「文狸」

 

Antaaはこれからもオンライン配信,Antaa QA, Antaa Slideを通して、AI/IoT時代を支える先生方の力になっていけたらと思っています。(文:飯嶋俊也)

 

 

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