高ナトリウム血症は、初期研修医が病棟で対応することの多い病態です。原因は脱水から、細胞外液の点滴の入れ過ぎまで様々です。今回は高ナトリウム血症の原因、対応方法について聖路加国際病院、病院総合診療医の西澤俊紀先生に執筆していただきました。
執筆者紹介
西澤 俊紀先生
医師4年目。聖路加国際病院に総合診療医として勤務されている。2016年に医学生向けのキュレーションメディア「ソーシャルキャピタルラボ(現,sc-lab.info)」を設立し、学生団体や企業への取材、広報を担当。その後、医療者が社会的問題の解決を目指すデザインチーム「チーム DonDon」の設立に関わり、2019年2月より「ストップ風疹ワゴンプロジェクト」のproject leaderを務める。
症例
JCS2-10、体温38.1度、血圧130/50mmHg、脈拍110回/分・整、呼吸回数24回/分、SpO2 90%(RA)
口腔粘膜の乾燥を認める、左側胸部にて呼吸音低下がある
血液検査:BUN 48、Cre 2.2、Na 160、K 2.7、・・・
尿検査:尿比重 1.020、尿浸透圧 600mOsm、尿Na30mEq/L、尿K 70mEq/L、・・・
体重 40kg、尿は25ml/hで出ている
高ナトリウム血症の病態
高ナトリウム血症は、自由水のバランス異常です。
自由水とは英語でelectrolyte free waterつまり、電解質の含まれない水分(例えば点滴で表現すると、5%ぶどう糖)です。自由水は細胞内液と細胞外液に均等に分布します。高ナトリウム血症は体内のNa量に比較して自由水が不足している状態です。細胞外液にNaが多く含まれるため、水分が欠乏し細胞外液の濃度が高くなると(高張性)、自由水が細胞内液から細胞外液に移動し均衡を取ろうとします。高ナトリウム血症では、この均衡のバランスが過度になり、細胞内は脱水状態となり、細胞外液はより濃くなるイメージです。
集合管ではADHが作用するため、人間は自由水の喪失をある程度抑制できますが、体から失った自由水を取り戻す機能はないため、毎日適切な自由水の摂取が必要です。
健常者では腎臓の尿細管、集合管で自由水の保持や、内因性の口渇刺激により自由水の摂取を増やし、Na濃度を一定に保つことができます。もし高Na血症になると口渇刺激が働き自由水の摂取が促されるのですが、高Na血症のほとんどの場合は自由水の摂取が自力でできない患者さんにみられます。
それでは、高Na血症の鑑別をみていきましょう。
高ナトリウム血症の鑑別
高Na血症では、まず塩分過多の有無を確認しましょう。
塩分過多は、生理食塩水や炭酸水素ナトリウムの過剰投与などの医原性でよく生じます。またNa含有量の多い抗菌薬の点滴投与などにも注意しましょう。
次に尿量の減少や濃縮尿があれば、消化管、尿、皮膚からの水分喪失が原因であることがほとんどです。
原因が明らかではない高Na血症の場合、尿浸透圧で鑑別をすすめることができます。
通常、高Na血症では血液が高張性になるためADHが分泌され、自由水の排泄が抑えられ、尿浸透圧が高くなります。しかし、尿浸透圧が600mOsm/Lより低い場合には一般的には次のことが考えられす。
尿浸透圧が300mOsm/L以下の場合、ADHの中枢での分泌不全(中枢性尿崩症)や腎臓での感受性の低下(腎性尿崩症)が原因です。中枢性尿崩症の場合、外因性ADHに反応し尿浸透圧が上昇する点で腎性尿崩症と鑑別できます。
尿浸透圧が300mOsm/L〜600mOsm/Lの場合、浸透圧利尿や利尿薬の可能性を考えます。
(鑑別のフローチャート)
(Up To Date “Etiology and evaluation of hypernatremia inadults”, )
今回の患者さんでは、細胞外液の減少があり、濃縮尿を認めました。数日間続く発熱による不感蒸泄量が多く、また自力で水分摂取ができていなかった環境であったため、高Na血症を認めたと考えられました。
対応の流れ
2. 血漿Naを10mEq/L/日の速度で下げる際の1日必要な自由水を計算する
3. 尿からの自由水排泄を計算する
4. 1日に投与する自由水を計算する
5. 5%ブドウ糖(自由水)で補正するときの速度を計算する
自由水欠乏量を計算する
この患者さんの自由水欠乏量を計算してみましょう。
自由水欠乏量(L)は下記のように計算します。
今回の症例では、体重 40kg、Na 160のため、自由水欠乏量は約3.4Lとなります。
血漿Naを10mEq/L/日の速度で下げる際の1日分の必要な自由水を計算する
高Na血症を急速に補正すると、脳浮腫を起こす可能性があるため、1日あたりΔ10mEq/L程度に低下を抑えることが安全です。
順調に1日10mEq/Lずつ低下すれば、140mEq/Lまで2日間かけて補正の予定を立てます。2日間かけて140mEq/L にするために、1日分の必要な自由水は約1.7Lとなります。
尿からの自由水排泄を計算する
こちらの式は尿中の[Na]と[K]の濃度(尿の張度を規定する電解質)の合計から、尿を細胞外液(血漿Na)と自由水に分けて考える計算式から変形した式で、自由水クリアランスと呼ばれます。
今回の症例では、尿[Na] 30mEq/L、尿[K]70mEq/L、尿量 25ml/hですので、0.22L/日の自由水排泄が予想されます。
1日に投与する自由水を計算する
今回の症例では、1日に投与する自由水は、1.7L+0.22Lで、約2Lです。
5%ブドウ糖(自由水)で補正するときの速度を計算する
今回、5%ブドウ糖(自由水)の補正速度は、約 80ml/hになります。
実際は、症例ごとにvolume statusを判断し、volume depletionを伴う高Na血症では細胞外液と5%ブドウ糖を両方投与します。vitalが不安定な高Na血症では、細胞外液の投与を優先します。Euvolumeの高Na血症では5%ブドウ糖で補正します。Volume overloadを伴う高Na血症では5%ブドウ糖を投与しながら、利尿薬を投与する場合もあります。
今回の症例では、年齢、体重、心機能、脱水を考慮して、細胞外液を40ml/h、5%ブドウ糖を40ml/hで投与しました。また低K血症を認めたため、中心静脈点滴より高濃度のK投与も追加しました。抗菌薬はセフトリアキソンを選択しました。
実際の経過
入院1日目は細胞外液を40ml/h、5%ブドウ糖を40ml/hで投与し、2日目は5%ブドウ糖を50ml/hで投与しました。脱水は改善しバイタルは安定していましたが、解熱はなかなか得られていませんでした。
入院3日目の血液検査ではNaは157mEq/Lでした。
今回の症例では自由水を2日間で合計2Lを投与しました。上記の計算式に基づくと、2日間で10mEq/Lは減少する予定でしたが。。。
なぜNaは予想より下がらなかったのか?
・微熱があり不感蒸泄量がある時
・尿量や尿濃度は一定ではない
Kを補正している時
実は、体内のKが上昇した際に血漿[Na]が上昇することが知られています。
Edelmanの式というNaの計算では非常に重要な計算式をご紹介します。この計算式からわかるように、体内のKが上昇すると血漿[Na]が上昇することがわかります。
Edelmanの式
Edelmanの式は細胞内液と細胞外液の張度より計算できるのですが、今回は解説を省略させていただきます。詳しくはAntaa Slideにある私の低Na血症のスライドを参照してください。
微熱があり、不感蒸泄量が多い
発熱や努力性呼吸が続き、不感蒸泄量が多い場合は、体内総水分量が減少していたことも考えられます。
尿量や尿濃度は一定ではない
今回の症例では、0.22L/日の自由水排泄が予想されていましたが、これの計算式に用いた尿中[Na]、[K]濃度、尿量は一時点のものであり、同じ濃度、尿量が続くとは限らないため、場合によっては自由水の排泄が予想より多かったことも考えられます。尿量測定や蓄尿をすることで、より正確な自由水の排泄が計算できます。
他に注意すること
血ガスの電解質は誤差が大きい?
Na濃度測定は、血液ガス検査と生化学検査では測定方法が異なるため、誤差が生じる可能性があります。血液ガス検査では直接法による測定値であり、生化学検査では希釈した検体を使用した間接法による測定値です。生化学検査のほうが血液ガス検査よりNaが高く出やすいことが知られています。
実際のところ、Na補正ではNa濃度の変化が重要なため、血液ガス検査と生化学検査どちらで測定しても、同じ測定方法を使用して変化を比較する場合は問題になることはあまりありません。(2時間前の血液ガス検査のNaの値と、現在の生化学検査のNaの値を比べることはナンセンスです。)
ただし、ICU領域の重症患者で血清Na濃度を測定する場合、重症患者では低蛋白血症が多いため、間接法では誤差が大きくなり、血液ガス検査(直接法)のほうがより正確であることが知られています。
HHSやDKAの場合
上記の場合、浸透圧利尿から高Na血症になりやすいのですが、高血糖がある患者さんでは血漿[Na]が低く見られがちです。血糖値が100mg/dL上昇するごとに、血漿[Na]濃度は1.6mEq/Lずつ低下します。HHSやDKAの場合、見かけ上血漿[Na]が正常や低値を呈している可能性があるため注意をしましょう。高Na血症であったにもしても、HHSやDKAの場合、細胞外液が欠乏していることが多いため、細胞外液の投与を優先します。
尿崩症の対応
尿浸透圧が300mOsm/L以下の場合、ADHの中枢での分泌不全(中枢性尿崩症)や腎臓での感受性の低下(腎性尿崩症)が原因です。尿浸透圧を測定することを忘れてしまっても、尿比重の下二桁を20〜40倍した数字から尿浸透圧を概算することができます。(例えば、尿比重が1.010の場合、浸透圧が200〜400と推測できます。)
中枢性尿崩症の場合、外因性ADHに反応し尿浸透圧が上昇する点で腎性尿崩症と鑑別できます。一方で、腎性尿崩症は外因性ADHに反応しません。尿浸透圧が300mOsm/L〜600mOsm/Lの場合、浸透圧利尿や利尿薬の可能性を考えますが、腎性尿崩症でも起こりうるそうなので注意をしましょう。
まとめ
高ナトリウム血症は初期研修医が病棟で対応することの多い病態です。Na濃度の推移は計算することができるため、3日後の採血の時点ではNa濃度がどれくらいになるのかぜひ計算して普段の診療にあたってみてください。
現場の判断を助ける医師同士の質問解決プラットフォーム「AntaaQA」
「外来で、専門外の症状の診断に不安がある。経過観察をしようか迷う」
「当直で、レントゲンで骨折を疑ったが、読影に不安がある。他に人を呼ぶべきか判断に迷う」
そんな時、AntaaQAでいつでも即相談することができます。
第一線を走る医師たち・同じ悩みをもつ医師に質問ができ、判断に迷ってたあなたの悩みを解決に導く、医師同士の質問解決プラットフォームです。
コメント - Comments -
コメントは公開されません。