多形紅斑(多形滲出性紅斑)は、特徴的な皮疹のため、驚いて受診される患者さんが多いのではないでしょうか。多形紅斑はどの診療科の医療者も遭遇することがある皮疹である一方、時に致死的となり得るスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(TEN)といった重症薬疹との鑑別が重要な疾患です。本稿では、多形紅斑の原因・対応・治療の実際について、千葉大学医学部附属病院皮膚科の宮地 秀明先生に執筆いただきました。
(2020年10月5日執筆)
執筆者紹介
宮地 秀明先生
医師8年目。現在、千葉大学医学部附属病院皮膚科で勤務されている。
多形紅斑の症状
多形紅斑は、新旧の皮疹が混在するため「多形」紅斑と呼ばれます。
皮疹は、小型の紅色丘疹で始まり、遠心性に拡大して直径数 cm程度までの類円形〜不整形の浮腫性紅斑となることが一般的です(図1)。
1つ1つの皮疹は、紅斑の中心に陥凹や強い発赤が見られ、中間部の発赤は淡く、辺縁では紅色調が増す、弓道の的のような外観になります。標的状病変(target lesion)または虹彩状病変(iris lesion)という用語で呼ばれるこの皮疹を見た時には、多形紅斑を想起します【1-2】。
図2 標的状病変(target lesion) の臨床像と模式図
皮疹は四肢優位に対称性に分布することが一般的であり、数日にわたって生じることが多く、新旧の皮疹が混在します。個々の皮疹は境界がはっきりしていることが多いですが、時に癒合することもあります。痒みは症例によって様々なため、診断の手がかりにはなりません。
多形紅斑の原因
薬剤性… 抗菌薬、NSAIDs、抗けいれん薬など
その他… 悪性腫瘍、膠原病、サルコイドーシスなど
多形紅斑の原因は多岐に渡りますが、感染症と薬剤が頻度が高く日常診療で重要となる原因としてあげられます【1,2】。罹患した患者の血中や組織中に免疫複合体が見られることから、多形紅斑には感染症や薬剤に対するアレルギー反応が関与していると考えられています。
感染症では、単純疱疹などのヘルペスウイルス属やマイコプラズマ、溶連菌などの先行感染の頻度が高いです。また、真菌症が原因となった症例や、ワクチン接種との関連が示唆される症例もあります。
一方、薬剤による多形紅斑(多形紅斑型薬疹)の原因薬は報告が多い薬剤として、抗菌薬やNSAIDs、抗けいれん薬などが挙げられます。その他、悪性腫瘍やサルコイドーシス、炎症性腸疾患などの全身疾患に付随して多形紅斑が出現することがあります。但し、成書によると約半数の症例では原因が不明であると記載されており、精査をしても残念ながら原因が判明しない症例も多いです。
対応する時のポイント
多形紅斑を診察する上で最も大事なことは、後遺症を残し時に致死的となり得る重症薬疹のスティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson Syndrome: SJS)ないし薬疹の最重症型である中毒性表皮壊死症(Toxic Epidermal Necrosis: TEN)と鑑別することです。つまり発熱や粘膜疹を伴うEM majorとSJS/TENを正しく見分けなければなりません【3】。
SJS/TENの皮疹は、典型的な多形紅斑の標的状病変に似ているけれども異なる、flat atypical target lesion(※)【3】が四肢だけでなく顔面や体幹にも出現し、びらんや水疱形成も顕著です。そして、眼や口唇の皮膚粘膜移行部、外陰部などに激しい粘膜症状を伴います。さらに眼病変の有無はSJS/TENの診断だけでなく治療を決める上でも重要な要素です。皮膚科医が眼の評価を行うことは困難なので、眼科の先生の御協力を仰ぎます【4】。
皮膚・粘膜症状の有無と全身状態の評価を総合して、SJS/TENではないと判断できれば、少し落ち着いて問診や身体診察を行います。
※ flat atypical target lesion について
その名の通り「非典型的な target lesion」です。target lesionと比較して3層構造が明瞭でなく、浮腫が少ないため隆起が少なくなります。
図3 SJSによるflat atypical target lesion(受診時)/ その臨床経過(治療開始4日目、6日目) 矢印は水疱を示す。一部生検を実施。
診断と治療
感染症
原因と考えられる感染症を示唆する所見がある場合には、診断に必要な検査を行い、その感染症に対する治療を行います。一般採血に加えてマイコプラズマ抗体価や、初感染を疑うのであれば単純ヘルペスウイルスIgM抗体などを測定してみることもありますが、ルーティーンで測定する必要はないでしょう。
薬剤性
薬剤性(多形紅斑型薬疹)が疑わしい場合には、定期内服薬・頓服薬・サプリメント・造影剤など原因となりうる薬剤について、時系列に沿って書き出してみるのが良いでしょう。薬疹の最も重要な治療は、原因薬の速やかな中止です。とにかく、疑わしい薬剤は中止ないし他系統の薬剤に変更することが大事です。しかし、複数の薬剤が被疑薬となることや、被疑薬が判然としない症例も多く、その場合には複数の薬剤を中止ないし変更しなくてはいけません。
その他
感染症や薬剤が原因ではないと考えられた場合には、他の原因についての精査を検討して下さい。多形紅斑は原因が判明しないことも多いので、積極的に悪性腫瘍や膠原病などに関する精査を行うかどうかは、症例毎に判断する必要があるでしょう。
治療
多形紅斑は通常数週間で自然消退しますが、対症的にステロイド外用薬の外用と抗ヒスタミン薬の内服を併用することが一般的です。粘膜疹を伴うEM majorではプレドニゾロン 0.5 mg/kg/day程度の中等量のステロイド内服を短期間併用することもあります。
原因が不明なことも多い多形紅斑ですが、再発を防ぐための原因の検索も治療の一環です。単純ヘルペスは再活性化を繰り返す疾患であるため、単純ヘルペスによる多形紅斑は再発することがあります。単純ヘルペスが原因であることが判明した場合には、アシクロビルの予防投与を検討できます。
また、多形紅斑型薬疹と診断した場合には、原因薬の同定も試みます。薬歴から疑わしい薬剤を選択し、添付文書やデータベースなどを検索して多形紅斑型薬疹の頻度を確認します。また、侵襲性の低い検査から順に、薬剤によるリンパ球刺激試験(Drug-induced Lymphocyte Stimulation Test: DLST)、薬剤パッチテスト、そして内服チャレンジテストなどを行うことを考慮します。但し、内服チャレンジテストは薬疹の再発、しかもより重症な症状を呈することがあるので、皮膚科医に任せるのが良いでしょう。
鑑別に入れるべき疾患
スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)と中毒性表皮壊死症(TEN)
図4 SJSによる体幹の浮腫性紅斑と水疱・びらんの例 / 口唇の出血性びらん・血痂の例
出典: 重篤副作用疾患別対応マニュアル 厚生労働省
ごく最近まで、多形紅斑とSJS/TENは一連のスペクトルを形成していると考えられてきました。私の学生時代や皮膚科医になったばかりの頃は、SJS/TENの様に重篤感はなくとも、発熱や粘膜症状を伴うEM majorはSJS/TENへの移行に注意しないといけないと考えられていました。しかし、近年は多形紅斑とSJS/TENは別疾患という考え方が一般的となりつつあります。つまり、EM majorはあくまで多形紅斑であって重症薬疹に移行することはないということが、最新のガイドラインにも記載されています【3】。
但し、皮膚科医が診察すれば、典型的な3相性のtarget lesionを呈する多形紅斑と、上述したflat atypical target lesionを呈するSJS/TENの臨床像の違いや、検査値と病理組織学的所見などから両者の区別がつくことが多いですが、非専門医には判断が難しい症例が多いと思います。また、EMとSJS/TENの関係についても議論に完全な決着がついたわけではないと思います。SJS/TENでは、多形紅斑とは異なりステロイドパルス療法や血漿交換療法などの強力な治療や全身状態の管理が必要となります。繰り返しになりますが、多形紅斑に似た皮疹と共に発熱、びらん・水疱、紫斑、粘膜疹などSJS/TENを疑いうる症状がある場合には、積極的に皮膚科医にコンサルトしていただいて良いでしょう。
蕁麻疹
図5 蕁麻疹の臨床像
典型的な標的状の皮疹であれば多形紅斑と蕁麻疹を間違えるわけないと思うかもしれませんが、油断は禁物です。蕁麻疹も輪っか状の皮疹となっている症例を日常的に経験します(図5)。個々の皮疹が24時間以内に痕を残さずに消退するかどうかを問診で確認することが鑑別の一番のポイントです。【6】
膠原病(全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群など)
膠原病は様々な皮膚症状を伴いますが、特に全身性エリテマトーデスやシェーグレン症候群では、多形紅斑様の浮腫性環状紅斑が出現することがあります。先行する膠原病の症状から診断できることが多いですが、初発症状が皮疹である症例の場合には血液検査を追加することで膠原病が判明することがあります。感染症や薬剤の関与が否定的な場合には、抗核抗体などの膠原病を念頭に置いた検査を追加しても良いでしょう。
類天疱瘡
液体に満たされてパンパンに張った水疱(緊満性水疱)とびらんが特徴的な疾患ですが、病初期は浮腫性紅斑から症状が始まります。高齢者の罹患率は意外と高いので、多形紅斑としてはやや皮疹が非典型な時や、薬疹の原因となりそうな薬剤が病歴ではっきりしない場合は、鑑別に上げてみましょう。
類天疱瘡は表皮真皮境界部に存在するタンパク質への自己抗体によって表皮と真皮に裂隙が生じる疾患であり、標的となるタンパク質によって細分類されています。類天疱瘡の中で最も頻度の高い水疱性類天疱瘡という疾患は、血液検査で抗BP180抗体(NC16a領域)を測定することで感度72~89%, 特異度94~98%で診断できます。血液検査の感度はやや低いので【7】、抗体検査が陰性であっても疑わしい場合には皮膚科へのコンサルトをお勧めします。
川崎病
川崎冨作医師によって世界に認知され【8】、新型コロナウイルス感染症との関連も話題となっている川崎病も、6つの主要症状の1つである皮膚の不定形発疹として多形紅斑様の皮疹を伴うことがあります。そもそも1960-70年代に川崎病が認知される以前は、スティーブンス・ジョンソン症候群と診断されることがよくあったようです。
小児の多形紅斑を診察する際は、成人と比べて小児では薬剤性の多形紅斑の頻度が低いことを念頭に、前述の溶連菌やマイコプラズマなどの感染症に伴う多形紅斑を第一に考えますが、眼、口腔内、リンパ節、手足の診察をする時に川崎病を頭の片隅において診察すると良いと思います。BCG接種痕の確認(図6)も忘れずに。
図6 BCG摂取痕の発赤 出典:日本川崎病学会 HP
匍行性迂回状紅斑
Antaa Q&Aの症例相談で話題になった皮疹です。多形紅斑で見られる標的状紅斑ではなく、より大型で切り株の木目のような環状の紅斑が、遠心性に急速に広がる皮疹です。大部分の患者で内臓悪性腫瘍が関連しており、治療によって皮疹が消退することが知られています。稀な皮疹であり、写真の提供は個人情報保護の観点から困難なため、よろしければGoogleでの画像検索や、NEJMのImages in Clinical Medicineなどで一度皮疹をご覧になってみて下さい。【9、10】
筆者からのMessage
多形紅斑は、どの診療科の医療者も遭遇することがある皮疹です。この解説記事を読むことで、読者の皆さんにとって多形紅斑がより身近な皮疹になったでしょうか?それとも、原因が多彩、鑑別疾患も幅広くて投げ出したくなってしまったでしょうか。後者であったならば筆者の力不足で申し訳ない思いですが、この記事から少しでも新たな学びを見つけて頂ければ嬉しく思います。
多形紅斑の他にも全身疾患と関連した皮疹はいくつもあります。医学生や初期研修医の先生には、例え皮膚科自体には興味がなくても、ぜひ1ヶ月でも2ヶ月でも良いので皮膚科での研修を選択してみて欲しいです。きっと、将来の進路でも役に立つと思います。
コラム 〜薬疹は皮膚科医の腕の見せ所〜
薬疹は皮膚科医にとって悩ましい疾患であると同時に腕の見せ所でもあります。若い患者さんで、薬は頭痛薬として内服したNSAIDsのみである時に薬疹が出現した場合は、診療は容易でしょう。しかし、高齢者や基礎疾患のある患者さんの薬疹は、被疑薬が複数であることが一般的です。「薬疹が疑わしいので、すぐに全ての薬をやめてください!」、「今飲んでいる薬は今後一生飲まないでください!」と患者や主治医に伝えられるのであれば、皮膚科医としては簡単で楽です。皮膚科に診察依頼したらこの様な返信をもらって、頭を抱えたことのある先生もいらっしゃるかもしれません。
薬疹の原因薬であれば、以後内服を避けることが望ましいことは確かです。しかし、代替薬のない薬、著効している抗がん薬、一般診療で処方頻度の高いセフェム系抗菌薬やNSAIDsなどの薬剤を、実際には原因薬でないのに禁忌としてしまうことは、以後の診療の選択肢を狭めてしまうことになります。最終的には主治医の先生に有益性とデメリットを考慮して使用継続・再開の可否を判断して頂くことも多いのですが、薬疹の重症度や被疑薬の診療における重要性を踏まえて、どの薬剤がより原因薬である可能性が高いかをお伝えすることや、①すぐに中止する薬剤と②継続して様子を見る薬剤を判断するように私は心がけています。薬疹の診療には多種多様な薬剤の副作用として起こる皮疹の知識を常にアップデートする必要があり、他診療科の医療者と円滑な連携が求められる、皮膚科医の腕の見せ所の一つだと思っています。
参考文献
- あたらしい皮膚科学 第3版、中山書店、2018
(無料オンライン版(図表なし):https://shimizuderm.com/textbook03/) - Rook’s Textbook of Dermatology, 9th ed., WILEY-BLACKWELL, 2016
- 日本皮膚科学会ガイドライン 重症多形滲出性紅斑 スティーヴンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症診療ガイドライン 日皮会誌:126(9),1637-1685, 2016
- 重症多形滲出性紅斑ガイドライン作成委員会 重症多形滲出性紅斑 スティーヴンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症 診療ガイドライン 日眼会誌. 121 (1): 42-86, 2017
- LITT’s Drug Eruption and Reaction Database https://www.drugeruptiondata.com
- 日本皮膚科学会ガイドライン 蕁麻疹診療ガイドライン2018 日皮会誌:128(12),2503-2624, 2018
- 日本皮膚科学会ガイドライン 類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン 日皮会誌:127(7),1483-1521,2017
- 川崎富作.指趾の特異的落屑を伴う小児の急性熱性皮膚粘膜淋巴腺症候群.アレルギー 1967; 16: 178–222.
- N Engl J Med 2010; 362:1814 DOI: 10.1056/NEJMicm0906654
- N Engl J Med 2019; 380:e3 DOI: 10.1056/NEJMicm1805833
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